この収集団に同行した化学さんは2人だった。2人は収集団の作業開始前に内部を調べていたが、そのときの検知では問題なかった。副団長から再検査を依頼された化学さんは内部に入り、数分後に戻るなり、こう伝えた。「安全が確認できなかった。やめましょう。一酸化炭素の濃度が非常に高くなっている。安全基準を超えているし、熱い。もっと濃度が高くなる場合もあると考えました。だからやめましょう。意識不明とか最悪の事態になってしまう」

有害ガスと地熱の危険度が高く、作業中止になった壕同書より転載 拡大画像表示

 その話を聞いて、僕はぞっとした。もしかしたら、僕は意識不明の重体になっていたかもしれないのだ。「一酸化炭素中毒になると、唇が紫色になるって聞いたことがある」と団員の1人が言うと、それまでに中に入った団員たちが慌ててお互いの唇の色を確認し合った。この壕の作業は、以後の検知で安全が確認されるまで中止となった。結局、再開はされなかった。

 危険と隣り合わせの遺骨収集作業。油断してはだめだ、と僕は初日から気を引き締めることになった。

書影『硫黄島上陸 友軍ハ地下ニ在リ』『硫黄島上陸 友軍ハ地下ニ在リ』(講談社)
酒井聡平 著