それに比べると、遺骨収集の現場は、まぎれもなく天国だった。ポカリスエットの粉末を溶かした冷水の携行用のタンクが置かれていた。熱さと喉の渇きに耐えかねて壕から飛び出した僕は一目散にそのタンクを目指し、団員共用のプラスチック製コップに注いで一気に飲み干した。渇ききった熱い体が内部から潤い、体温が下がる感覚がした。「これ、人生で一番うまいポカリでした!」と言うと、壕の前にいた皆が笑った。

 息が整ったところで再び内部に入り、スコップを振るった。僕が外にいる間、別の団員が中に入って作業していたため、壕の行き止まり部分は先ほどよりも数センチ深く掘り下げられていた。

 今度も10分に至らず息が上がり、出口に向かった。半分ほど戻ったところで、地熱に満ちた空気に外気が混じり「ああ、空気がうまい!」と声が出た。外に飛び出すやいなや、僕はばたりと大の字になって倒れた。心配する他の団員たちに僕は報告した。

「最初に入った時より、壕の底の熱さが増していました。だから空気もより熱くなっていた気がする。そして異常に息切れするんですが、これは何なんですかね」

 それを聞いていた団員が「深く掘れば掘るほど地熱が高くなることもある。もう地下足袋の人は入らない方が良い。足の裏がやけどする」と言った。僕が履いていたのは厚底の安全靴だった。

 僕の異常な息切れを見た副団長が判断を下した。

「では“カガクサン”に確認してもらうことにしましょう」

陸自の化学防護部隊の隊員が
危険な一酸化炭素濃度を検知した

「化学さん」とは、ガス検知の技能・知識を持つ自衛官の通称だった。彼らは本土の陸自駐屯地から派遣され、収集団の現場活動に同行する。硫黄島は有毒な火山ガスに満ちた地下壕が少なくないからだ。

 収集団が地下壕内での捜索活動を行う際、化学さんは酸素ボンベを背負い、防毒マスクを着けた姿で真っ先に内部に入り、専門機器を使って内部の空気に危険性がないか調べる。調べる対象は酸素、硫化水素、一酸化炭素、可燃性ガスなどの濃度だ。