共和党ヴァンス副大統領候補は
EVを「詐欺」と主張してきたが…

 筆者がこの件に関して意外に思った理由は、ヴァンスが、電気自動車(EV)を「詐欺」と主張してきた人物だからです。

 実際、最近の共和党大会でもヴァンスは「(米民主党の)ジョー・バイデンとカマラ・ハリスの“緑の新しい詐欺”を拒否し、偉大なアメリカを取り戻そう」と言い切っています。ヴァンスは、「EVはそもそも発電の段階で環境汚染をしている、環境に優しいなんて詐欺だ」と主張してきました。
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A leader who rejects Joe Biden and Kamala Harris’s Green New Scam and fights to bring back our great American factories.
「Read the Transcript of J.D. Vance’s Convention Speech」The New York Times/2024/07/17
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 マスクは、言わずと知れたEVの世界最大手メーカー、テスラの創業オーナーです。テスラは、バイデン政権下のEV支援や優遇策(7500ドルの税額控除による購入サポートや、充電ネットワークに対する補助など)から多大な恩恵を受けてきました。

 これを踏まえると、マスクは、EVを詐欺扱いするヴァンスを副大統領に推薦する理由など、全くないように思われます。

 一方で、筆者には思い当たる節もありました。それは、5月に仏パリで行われた欧州最大級のテック系イベント「VivaTech 2024」に参加した時の、マスクのスピーチ(オンライン)の内容を思い出したからです(イベントの現地レポートは当記事を参照)。

 かつてマスクは、「貿易障壁が無ければ、中国のEVメーカーは競合をほぼ壊滅させるだろう」と主張していました。が、5月のパリのスピーチでは、「中国製のEVに100%の関税をかける事は反対だ」と訴えていました。完全に逆の、方針転換です。

 今春4月ごろから、ブルームバーグをはじめとしたメディアは、テスラが世界最大の自動車市場である中国市場で苦戦していることを報じています。23年1~3月期に10.5%あったテスラの市場シェアは、中国EVメーカーとの競争に負けてしまい、同年10~12月期には約6.7%に縮小しているのです。

 中国だけではありません。7月ごろからメディアが報じたところによると、本拠である米国でもテスラは下り坂です。カリフォルニア州のバッテリーEV市場におけるテスラのシェアは、1~6月期に53.4%と、前年同期の64.6%から減少しました。また、同州における4~6月期の新車登録台数でも、前年同期比24%減少で、3四半期連続の前年比マイナスに沈んでいます。

 米国内で競合しているのは、中国EVメーカーではありません。米フォード・モーターや、米アマゾン・ドット・コムが出資するリヴィアン・オートモーティブ、あるいは韓国の現代自動車などにテスラはシェアを奪われているのです。

 こうした中、マスクはむしろ米国内での補助金によるEV市場の拡大をストップさせようと方針転換しています。自らXに「全ての補助金を廃止しろ!それがテスラを助ける唯一の方法だ」とポストしてもいます。

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