イーロンマスクの恐るべき3日間
中国を電撃訪問&500人レイオフ

 振り返ればテスラは4月30日、米国におけるEV充電ネットワーク計画を大幅に縮小すると発表し、充電インフラチーム500人全員をレイオフしました。

 その結果、主要な自動車メーカー全てと互換性のある急速充電ネットワークを所有・運営するEVgoが、連邦政府の補助金を受けて、テスラの強力なライバルとして浮上しています。つまり、バイデン政権のEV支援策は、テスラにとって無用どころか害をもたらす存在になっているのです。マスクが、バイデンからトランプ(&ヴァンス)に乗り換えた真の狙いは、ここにあるのではないでしょうか。

 また、マスクは4月28日に中国を予告なしに訪問しました。中国で政権ナンバー2の李強首相が会談に応じ、高度運転支援機能の投入に関して、中国政府から原則承認を得たと報じられています。この直後となる4月30日に突然、米国におけるEV充電ネットワーク計画の撤回とレイオフを発表しています。この2点は連動していると見るのが妥当でしょう。

 マスクは、中国EV市場における一定のポジションを、中国政府との交渉の結果インフラレベルでの確保に成功し、そこに経営資源を集中投下することにシフトチェンジしたのではないでしょうか。

 そして米国市場においては、当面は防戦に回り、他社がインフラレベルで追撃してくるのを阻止する戦略に変更したのではないでしょうか。連邦政府の支援なくして全米でのEV充電ネットワークを作ることなど不可能と言ってもいいからです。

 海外報道と点と点を線で結びながら、マスクの頭の中を探っているうちに、核心を突くニュースが飛び込んできました。

 ロイター通信(7月24日付)によると、マスクは、トランプがEV普及策を撤回する可能性について、「競合社は壊滅的な打撃を受けるがテスラには若干の痛手にしかならず、長期的にはおそらくテスラを助けることになると予想している」「テスラは自動運転技術に特化したAI企業であるため、トランプが補助金を廃止してテスラ車の販売に影響が出ても、決定的な影響にはならない」などと、決算後の電話会見で述べたそうです。

 マスクがトランプ支持に回ったのは決して、銃撃後のトランプの勇姿に感動したから、などという美談が理由ではないでしょう。貪欲に、自分のビジネスをうまく回そうとする強かさが透けて見えます。

 わが国の企業や経営者も、マスクのような経営者精神と戦術を見習いつつ、政局に翻弄されるグローバルなビジネス環境でいかに競争を生き抜いていくか、もっと強く認識する必要があると思います。