あんな保険金詐欺をやる人間ならば、殺人事件を起こしてもおかしくない。メディアの報道に、世間もそのような目を向けていたのは事実だ。しかしそれらは本来、切り離して考えるべきである。

 二村監督も、「マスコミ報道が事件に与えた影響も大きかったと思います」と語るが、「和歌山カレー事件」では、メディアスクラム(集団的加熱取材)が問題となった。逮捕される前から、「疑惑の夫婦」として林夫婦を追いかけ、テレビや週刊誌で連日取り上げた。

 林眞須美が、報道陣にホースを向け、水をかける映像を思い浮かべる人も多はずだ。しかし、毎日200人以上の報道陣が約2カ月間、24時間、家の周りを囲み、一挙一動にカメラを向けられる側の人間から見る風景を想像するとどうだろうか――。

「正義の暴走」がこの事件の過度な報道にもつながったとも言えよう。そして二村監督自身もまた、行きすぎた「ある行動」に出てしまった自分に、カメラを向ける。

改めて二村監督に問う
「林眞須美は冤罪だと思うか」

「和歌山毒物カレー事件」は冤罪なのか?カメラがとらえた“杜撰な捜査”の実態有罪の根拠となったヒ素の鑑定について「この映画がきっかけになって、科学者に議論してほしい」と語る二村真弘監督

「最初は、当時のマスコミの報道姿勢に怒りを感じていました。でも『自分は冤罪事件を追っているから、多少のことは許されるべきじゃないか』。そんな奢りがどこかにあって、実際にあのような事件を起こしてしまった。批判していた自分も結局他のメディアと同じだと気付きました」

 今後も取材は続けていくという二村監督。なお、3回目の再審請求で、弁護団は祭り会場にあった紙コップのヒ素と、林家にあったヒ素が同一とする鑑定結果などに誤りがあったと主張している。

 最後に二村監督に聞いた。林眞須美が冤罪だと思うか?

「その可能性はかなり高いと思っています。取材する中で、想像していた以上におかしな捜査が行われていたり、曖昧な情報を根拠に裁判の認定が行われていたりすることが分かりました。無実かどうかは分かりません。ただ、少なくとも再審はすべきだと思います」

PROFILE 二村真弘(にむら・まさひろ)
1978年愛知県生まれ。日本映画学校(現・日本映画大学)で学び、2001年よりドキュメンタリージャパンに参加、11年からフリーランスとしてテレビ番組の制作を手掛ける。「見る当事者研究」(15/DVD作品)、「千原ジュニアがゆく 聞いてけろ おもしぇ~話」(17/NHK総合)、「情熱大陸/松之丞改め神田伯山」(20/MBS)など。『マミー』が初映画監督作品。