1993年に、澄んだ歌声と親しみやすいメロディでCDデビューし、人気を博した、シンガーソングライターの東野純直(あずまのすみただ)さん。プロのミュージシャンでありながら、ラーメン職人という、もうひとつの顔を持つ東野さんは、“パラレルキャリア”の実践者でもあり、新卒社員(2025年4月入社予定者)向け媒体「フレッシャーズ・コース2025(*)」にも出演している。アルバイトの雇用など、若者たちとの関わりも多い東野さんに、異なる世代が誤解なく対話し、付き合いを深めることの大切さについて語ってもらった。(ダイヤモンド社 人材開発編集部、撮影/菅沢健治)
* 「フレッシャーズ・コース2025」(ダイヤモンド社)は、全7巻ワンセットの新卒内定者フォローツール。東野純直さんは、第4巻の「The Life」(著名人インタビュー)に出演している。当インタビューの一部分は、同コーナーから転用
東野さんは、いまどきの若者とどう接しているのか
1993年に、「君とピアノと」でデビューしたシンガーソングライターの東野純直さん。印象深いフレーズとメロディで、2ndシングル「君は僕の勇気」は30万枚超のヒットを記録した。
東野 デビュー当時の僕は、やる気だけはハンパじゃなかったです。やりたいことがたくさんあって、夢と希望にあふれていました。いま、それから30年ほどが経って、やる気と推進力は変わらないけれど、かなりナチュラルになったかな、と。若いときは勢いだけで行動して、失敗も多かった。でも、若いときの失敗は許されるものだから、若さの勢いで、どんどんやって、どんどん失敗していい――かつての自分を振り返って、僕はそう思います。失敗を恐れたら、成長できませんから。当時、若かった僕をしっかり見てくれて、アドバイスしてくれる大人たちが周りにいたことは、とてもありがたかったですね。
東野純直 Sumitada AZUMANO
1971年、鹿児島県鹿児島市生まれ。1992年、ミュージック・クエスト世界大会で審査員特別賞を受賞し、1993年に「君とピアノと」でデビュー。楽曲提供・ラジオDJ・声優もこなすマルチプレーヤー。音楽活動と並行して、支那ソバの銘店で8年間修業した後、昭島市(東京都)に「支那ソバ 玉龍」を開店(現在は閉店し、通信販売のみでの営業)するなど、ラーメン職人としても活躍している。2019年リリースのアルバム『Mr.cook』に続き、今年(2024年)8月に、フルオリジナルアルバムとして自身14作目となるアルバム 『No one’s innocent』をリリースした。東野純直公式ホームページ
そんな東野さんは、プロの音楽活動を続けながら、2016年に、もうひとつの仕事として、ラーメン店を開業(現在は通販のみで営業)――東京都内の人気ラーメン店で8年間の修業を積んだうえでの出店だった。ミュージシャンとして、あらゆる世代の仲間たちとの付き合いがありながら、自ら厨房に立つ飲食店の経営では、アルバイトの雇用などで、若者たちとの関わり合いも多くなった。
東野 若い世代の人たちとの付き合いで僕が心がけているのは、程よい“距離”を保つこと。そして、程よい“距離”を保ちながら、聞かれたことに笑顔で答える姿勢です。その際、答えをストレートに与えるのではなく、彼・彼女たち自身で答えを見つけられるように、考えるヒントをさりげなく置いてあげるようにしています。僕ら年長者は、年下の相手に対して、つい、上からものを言いがちになってしまいますが、自分たちも目上の方の言葉に触れてきました。そのことを忘れずにいれば、若者たちに、圧を感じさせずに接することができるのではないでしょうか。
社会的なニュースとしてとり上げられることも多い、企業内のハラスメントやコンプライアンス違反の問題――上司がなにげなく発した一言がハラスメントとなり、それをきっかけに、部下が休職や退職に追い込まれるケースも決して少なくない。若い部下や年少者とのコミュニケーションにおいて、上司や年長者はどのようなことに注意したらよいのだろう。
東野 何よりも重要なのは“伝え方”だと思います。人によって仕事をこなすスピードは違うので、たとえ、期限内にタスクを終えることができなかったとしても、必要以上に責めないこと。そして、遅れているからといって急いで仕上げさせないこと。いまどきの若者は、カラオケボックスでは、終了時間の10分前には部屋の片づけを始め、5分前には退出します。もちろん、全員が全員、そうとは限りませんが……会計をしっかり済ませ、終了時間には店を出るような子たちが多い。ギリギリまで熱唱して、フロントからの電話で慌てて飛び出していた僕ら世代には考えられない行動です(笑)。そんな傾向を持つ若者たちですから、提出期限に仕事を終えられなかった自分が許せなく、自らを責めてしまう。そして、ストレスを抱え、ストレスがMAXまで達したときには心身ともに疲弊しきっていたり、会社を辞めたりしている。だから、学校を卒業したばかりの新入社員に対しては、プレッシャーをかけずに温かく見守り、励ましていくのがベストだと思います。それを念頭に、僕は、「相手に思いやりをもって接することが重要」と、一緒に働く若者たちに伝えています。