相互理解は、10歳から15歳くらいの年齢差が難しい

 ハラスメントにならないよう、自分に何らかの火の粉が降りかからないよう、年下の部下や若者たちとのコミュニケーションをできるだけ避けているビジネスパーソンもいるだろう。しかし、同じ職場で働く以上、適切な対話で良好な付き合いを目指していく必要がある。どうしても生じてしまう“ジェネレーション・ギャップ”――その埋め方を、東野さんに尋ねた。

東野 たとえば、上司が部下の親御さんと同じ世代なら、親御さんと同じ趣味があったり、共通した価値観があったりと、部下である若者の理解を得られるかもしれませんが、10歳から15歳くらい離れている場合がいちばん難しいと思います。40代以上はもちろん、30代後半の管理職は、若者のトレンドをリアルに知りません。「いま、これが若い世代に流行っているんですよ」と見せられてもピンとこない。だからといって、無理して、若者の流行に近づくのはやめたほうがいいです。浅い知識は見透かされ、見下されてしまうから。僕は、過剰に歩み寄らずに、彼・彼女たちの言動を注視するようにしています。そして、タイミングを計って、ここぞというときに自然に話題の中に入っていく。また、同世代同士なら、「髪が薄くなった。お腹が出てきた」と笑い飛ばせますが、若い人たちは上司や年長者の外見を気にしがちなので、見た目や身だしなみの最低限の配慮はするべきだと思います。

 そして、若者たちに対しては、「自分がまだ“ひよっこ”であることを自覚して、常に勉強する姿勢で目上の人と接してほしい」と、東野さんはメッセージを送る。東野さんがミュージシャンとしてデビューした頃のエピソードを話してくれた。

東野 CDの発売にあたって、スタッフさんとの決起会に参加したとき、僕のマネージャーから「あそこにいる、初老の男性の靴底が斜めになっている理由が分かるか?」と尋ねられて、うまく答えられないでいたら、「『東野純直のCDを置いてください』って、靴底をすり減らして全国のショップを回っているからだよ」と。「曲をつくって歌うことで、キミの仕事が完結しているわけじゃない。自分の曲を大切にしている以上に、支えてくれるスタッフを大切に思いなさい」──この、マネージャーの言葉とスタッフさんの斜めにすり減った靴底は、僕の胸の中にいまでも強く残っています。