「療養費」には時効あり
長期間放置でお金が戻らないことも?

 公的な医療保険の給付方法は、サービスそのものを提供する「現物給付」、給付金や手当金を支払う「現金給付」がある。病気やケガをした場合の保険給付は、前者の「現物給付」が原則とされている。

 病気やケガをして病院や診療所を受診すると、窓口では必ず被保険者証の提示を求められるはずだ。これは、被保険者証で患者が加入している健康保険組合を確認し、かかった医療費を請求するためだ。

 この制度があるおかげで、患者の窓口負担は医療費全体の一部で済んでいる。例えば70歳未満の人の自己負担割合は3割なので、医療機関は審査支払機関を通じて、残りの7割を健康保険組合に請求するという流れになっている。

 旅先で病気になったり、突然の事故に遭ったりして、被保険者証を持たずに受診すると、医療機関は医療費の請求先を確認することができない。そのため、かかった医療費の全額が患者に請求されるのだ。

 ただし、国民健康保険法第五十四条の1、健康保険法第八十七条の1では、市町村や組合、健康保険組合などの保険者が、「やむを得ないものと認めるときは、療養の給付等に代えて、療養費を支給することができる」と定めている。

「療養費」は、やむを得ない事情で保険診療を受けられない時や、治療に必要な装具を作ったりした場合に、患者が一時的に立て替えた費用を払い戻す制度だ。この制度を利用すると、被保険者証を持たずに医療機関を受診して全額自己負担した医療費の一部を取り戻すことができる。

 もちろん、医療機関に支払ったお金の全額が戻るわけではない。払い戻しを受けられるのは、公的医療保険が適用されている治療で、本来の自己負担分を除いた金額だ。また、個人の都合で個室を利用した時の差額ベッド代、保険のきかない先進医療など、保険適用外のものは「療養費」の対象にはならない。

 例えば、冒頭のAさんの場合、一泊入院で医療費の全額6万円を立て替え払いしたが、すべて保険適用されている治療なので、本来の自己負担分は3割の1万8000円だ。後日、「療養費」の申請をすると、4万2000円を払い戻してもらうことができる。

 加入している健康保険組合で、「療養費支給申請書」などの届け出用紙をもらって必要事項を記入したら、医療機関から発行された領収書を添えて提出すると、おおむね3カ月程度で療養費が払い戻される。

 公的医療保険の給付を受ける権利は、2年を経過すると時効が成立し、消滅してしまう。「療養費」は、医療機関に治療費を支払った日の翌日から2年経つと受け取れなくなってしまう。急な病気やケガで、被保険者証を持たずに受診したという人は、早めに申請するようにしよう。