もっとも公立中に転校したとしても、退学理由がいじめ、とりわけ被害側の場合、転校を機に気分を新たに元気に登校、というわけにはなかなかいかないという。

 折角、小学校6年で受験し難関を突破したという自負もあれば、いじめで学業を中途で挫折したという負い目もある。学校生活に馴染めなかったという不安もまた大きい。

 そのため公立中へと転校しても、事実上、学校に通うことなく、勉強はフリースクールで行い、内申点などあまり細かいことにこだわらない私立高校を受験、学校生活に戻る――というのが私立中をいじめで辞めざるを得なかった生徒の一般的なコースだという。

決して表に出なかった
私立中学のいじめ問題と自主都合退学

「逃げるが勝ち――、といいます。でも逃げてばかりでもまたダメです。自分とは合わない人はどこに行ってもいる。そういう人とどうつきあうかを考えるのも、また学校生活ですから」

 こう語るレン君ママは、親子で立ち向かったいじめ被害の経験から、レン君には「ただ逃げるのではなく立ち向かうこと」を学んで欲しかったと話す。

 かつてこそ、私立中学校の「自首都合退学」の割合は決して表に出ることがなかった。私立中学校におけるいじめ問題もまた同じだ。どちらも私立中学校では、決してそのような問題は存在しないという建て前からだ。

 しかし今、時代は進み、学業不振、そしていじめといった理由で私立中学校を自らの意思で退学する者がいるという事実が、世に知られてきている。その数は、きちんとした統計はないものの、兵庫県、京都府の私立中学校を渡り歩いたひとりの教員によると、おおよそ「中1の入学時から中3の卒業時までに1割程度が欠けるのではないか」という。

 中高一貫の6年制であれば、さらにもう1割、中1の入学時から2割の生徒が居なくなっているという計算になる。

 この数を多いと見るか、少ないと見るかは人ぞれぞれだが、いざわが子が進路の変更を余儀なくされた際、どう舵を切るか。そこまで考えている保護者は少ないだろう。何事かが起きる前、順調に進んでいると思われる時期にこそ、逃げずに向き合いたい問いだ。

(フリージャーナリスト 秋山謙一郎)