本当のお金持ちは
金融商品を自分で選ばない

 実は私自身、かつてスイスのプライベートバンクに自身の資産運用について相談したことがあります。最初の訪問では、まずボードメンバー(取締役)と応接室で話をしました。彼が自行の歴史や経営哲学などを詳しく説明してくれました。

 そのうえで、こちらの意向や目的などについて1時間以上かけて丁寧にヒアリングしてくれました。その間、具体的な金融商品の話などいっさい出ませんでした。どちらかというと、お金に対する考え方や使い方など、お金に関する哲学的な話が中心でした。

 その確固たる信念や、1対1での丁寧で真摯な顧客対応に驚かされ、「ここに任せれば安心だ」と思ったことをいまも鮮明に覚えています。

 このようにして欧州の富裕層は資産運用を任せる相手を決めたら、実際の投資商品の選択や配分は、基本的にプライベートバンクに一任します。

 自分であれこれ指示をすると、どうしても気になって、心穏やかに過ごせなくなるからです。運用状況の報告も四半期または年1回です。長期的な運用では、毎月のパフォーマンスに一喜一憂しても意味がないと考えているからです。

 欧州の富裕層と同様、日本の伝統的な富裕層や資産家も「守る」ことを重視していますから、投資や資産運用は非常に慎重です。それは疑心暗鬼とも言えるほどです。したがって当社もそうしたお客様の信頼を得るには時間がかかります。このことに関しては改めて別の回でお話ししたいと思います。

篠田 丈(しのだ・たけし)
アリスタゴラ・アドバイザーズ会長
2011年3月から現職。1985年に慶応義塾大学を卒業後、日興証券ニューヨーク現地法人の財務担当役員、ドレスナークラインオート・ベンソン証券及びINGベアリング証券でエクイティ・ファイナンスの日本及びアジア・オセアニア地区最高責任者などを歴任。その後、BNPパリバ証券で株式・派生商品本部長として日本のエクイティ関連ビジネスの責任者を務めるなど、資本市場での経験は30年以上。現在、アリスタゴラ・グループCEOとして、日本、シンガポール、イスラエルの拠点から、伝統的プライベートバンクと共に富裕層向け運用サービスを展開、また様々なファンドを設定・運用、さらにコーポレートファイナンス業務等を展開している。