利用限度額の制度変更により
80万円の振り込みができず

 ただし、先般行われた制度変更により、それらは杞憂に終わる。私の銀行では、75歳以上の高齢者の口座にひもづいているキャッシュカードについて、一日の利用限度額を一律20万円に制限しているため、この振り込みができなかったのだ。

 このATM制限のおかげで、我々現場の行員たちは毎日たくさんのクレームに悩まされてきた。

「年寄りを馬鹿にしている!やり方が汚いぞ」

「何も知らせずいきなり限度額を下げるなんて乱暴すぎないか?」

「事前に知らせろよ!物事には順序ってもんがあるだろ?」

 確かに十分な告知はなかった。はじめのうちは年齢70歳以上、特に振り込め詐欺の被害が多い地域の顧客に限定して、ATMの利用限度額に制限をかけていた。しかし詐欺被害は減らず、全国一律に75歳以上の顧客口座に対して1日の利用限度額を20万円に減額した。

 告知はホームページやATMの画面上で行ったが「聞いていない」「知らなかった」といった不満が続出した。高齢者にとっては、インターネットに触れる機会はかなり少ないだろう。顧客保護のために施した措置が、皮肉にもクレームの火種に繋がった。しかし今回は、悪名高い限度額制限が役に立ったわけだ。

私が騙されているとでも言うの?
失礼じゃない、あなた!

「ちょっと!」

 女性を注視していた飯塚さんが手招きで呼ばれた。

「振り込みしたいんだけど、何だか進まないのよ」