「本日はおいくらの振り込みでしたか?」
「80万円よ」
「その金額ではATMの振り込みは出来かねます。窓口でお手続きしますので、どうぞこちらへお越し下さい」
記帳台で振込伝票に記入してもらおうとするのだが、女性はスマホから手を離さず誰かと通話したままだ。
「あなた、メモ用紙ないかしら。振り込み先をメモしたいのよ」
「電話の相手はどちら様ですか?」
「日本オリンピックなんとか」
「メモを見ますと、個人名になってますね。こういった振り込み先は日本オリンピック協会といった法人名が普通ですが。おかしいですね」
「息子が内金で20万円払っていると聞いたわ。間違いないわよ」
「息子さんには確認しましたか?」
「何かしら?私が騙されているとでも言うの?そこまでもうろくしていないわよ。失礼じゃない、あなた!」
オリンピック見れなかったら
訴えるわよ!
声が大きくなってきたため、課長の私が間に割って入った。
「先ほどからお話を伺っていたのですが、まずはご子息と連絡を取っていただけませんか?確認されてからでも遅くはないと思いますが」