ただ、そうした情報を入手した時に、敏感に反応し行動することこそ、詐欺被害を食い止める数少ないチャンスに繋がるものだ。銀行員が重い腰をやっと上げるのは、警察や弁護士から書面での口座凍結依頼が届いた時。その頃には、詐欺グループはとっくに現金を引き出し、山分けしている頃だろう。
この辺りの「銀行の保身」については、拙著「メガバンク銀行員ぐだぐだ日記」に記してある。FX(外国為替証拠金取引)投資と称し騙し取られたシングルマザーの金を取り返す話である。
振り込まれた約2億円は
全額ビットコイン業者へ
「貴重な情報をいただきありがとうございました。今後の取り引きの参考にします」
受け取り先銀行の預金担当者が、受話器の向こうで淡々と返事をした。感謝の言葉は含まれているものの、面倒臭いというニュアンスが明らかに感じられた。
「おばあちゃんさ!東京オリンピックはやらないんだよ!コロナなんだからさ。延期なの!さっき発表されたの!」
「3時までに振り込まないといけないのよ!」
ロビーの隅に設置した小さなテーブルを挟んで、警察官と女性が怒鳴り合っている。30分近く続いた頃、3人の制服警察官が応援に駆けつけた。観念したのだろうか、やっと語気が落ち着いてきた。
「おばあちゃん、今日はもう帰ろうか。私ら家まで送るからね」
4人の警察官に促され、うつむきながら女性は支店を後にした。夕刻、生活安全課の刑事から電話があった。