気軽に飲めるパブやスナックと比べて、バーは少し特殊な空間だ。シックな照明に洒落たBGM、そして洗練された所作でシェイカーを振るバーテンダー。そんな大人の世界だからこそ、うっかり無作法を重ねてしまっている人も多いかもしれない。バーにとって良い客であるためのポイントを、筆者の店舗運営経験からまとめてみた。(フリーライター 友清 哲)
一介のバーマニアが
経営側に回って初めて気付いた
文筆業を生業とする筆者だが、昨年まで世田谷区の三宿エリアで10年ほどバーを経営していた。バーにもさまざまなタイプがあるが、筆者が営んでいたのはカクテルやウイスキーを中心とする、オーセンティックバーである。
オーセンティック(authentic)とは「本物の」、あるいは「正真正銘の」という意味。オーセンティックバーでは、黒いベストにスラックス姿の、訓練されたバーテンダーが接客をするのが一般的だ。
もちろん、筆者はカクテルのレシピもシェイカーを振る技術も持ち合わせていないから、店にはバーテンダーが常駐していて、自分はもっぱら企画やプロモーションに徹していた。普通にカウンターで飲んでいる日も多く、特にオーナー然と振る舞うこともなかったから、一見客には単なる常連の一人と認識されていたに違いない。
おかげで10年の間、経営と客のはざまで本当にいろんな客と出会うことができた。何より、もともと夜のバーホッピングが趣味で、無類のウイスキー好きであるから、裏側から見るバーの世界は実に興味深いものだった。
とりわけ客一人一人の振る舞いには、経営側に回ってみて初めて気付くことも多かった。率直に言えば、店にとって好ましい客とそうではない客には、明確な差があるのだ。その違いを、少し整理してみたい。