自由貿易の推進は、世のため人のためになるという考えが一般的になりました。しかし完全な自由貿易を行うことに多くの国が嫌がりました。なぜなら、各国には自分たちの思い描く国の姿があり、自分たちがありたいと思う姿と、自由貿易は対立することがよくあったのです。

 特に農業は問題になりやすい産業でした。世界中、どこの国も農業を重要視していました。食料安全保障と言われることが多いですが、自国の食べ物を全て自国で生産していたら、他国とトラブルになって「食料を輸出しない」と言われても平気です。

自由貿易を完全に適用すれば
農業による自然破壊は止まらない

 また、それぞれの国の風景は、農業が多くを形作ります。アメリカのどこまでも続く麦畑やトウモロコシ畑、スイスの山々で行われる牧畜がなくなることは、それぞれの国にとって堪え難いことでした。あまり農業のイメージがない、金融が主たる産業であるシンガポールのような国でも、農業がなくなるのは嫌なようで、農業振興に余念がありません。

 そのため、自由貿易は正しいと公言しつつも、保護主義的な農業政策を行うことはあっちこっちで行われていました。