また、チームにおいても、実績こそがチームメンバー同士の信頼につながるのです。特にチームリーダーは実績と自信だけでなく、コミットメントへの本気度が最重要事項となるでしょう。本気さは、あらゆるコミュニケーションのテクニックを超えています。チームが一丸となって前に進むには、リーダーの死ぬ気を感じさせる本気度がどうしても必要なのです。
連載第1回でもご紹介したアップル復活の舞台裏のとおり、私がアップルに入社した2004年ごろ、社員はすっかり自信を失っていました。今のアップルの隆盛を考えると信じられないくらい、何をやっても売上は上がらずボロボロの状態だったのです。
しかし、私はスティーブやアップルに対して、「日本の復活」というコミットメントをしていました。当時の状況を考えれば、それこそ死と隣り合わせのコミットメントです。
入社して3カ月間、各部署の人に話を聞き続け、ビジョンや意識の違いはあるけど、全員がアップルを愛しており、アップルを復活させたいという強い気持ちを持っていることを知りました。この気持ち(コミットメント)があれば、必ず復活できると感じました。
4カ月目から優秀な若手社員を一気に昇進させ、より高い責任の役職で存分に実力を発揮してもらえる環境づくりを開始しました。それにともない、結構な数の人員の入れ替えも行いました。
また、キャンペーンから店頭展開までテコ入れをし、アップルのハードウェアだけでなく、ソフトウェアを含めた「アップル体験」をいかに届けるかを実行していったのです。もちろん、そうした改革を快く思わない人もいたと思いますし、「ラク」を決め込んでいた社員にとっては、非常に居心地の悪い職場になったと思います。
みんなが何より自信を取り戻すために、私は社長就任後三年間、社長室の前にデカデカとスローガンを貼り出し、目標を宣言しました。このような大きな横断幕を作ってまでも社員に伝えたかったことは、とにかく目標を宣言し、みんなでコミットして実績をつくりたかったからです。
そうして徐々に有言実行による実績が積み重なることで、多くの社員の顔には輝きが戻ってきました。社長就任一年目のクリスマス商戦は、大きな変革と言えるほどの復活は果たせず、私は死と隣り合わせでしたが、とにかく死んでも達成してやるという思いで、18カ月後、ようやくスティーブとの約束を果たせたのです。
復活の背景には、iTunes のスタートやiPod nano の発売が大きく関係していますが、その裏には、社員全員の強いコミットメントが隠されていたのです。(連載終了)
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1959年生まれ。神戸大学卒業後、日本IBMに入社。日本オラクル、ケイデンスを経て、EMCジャパン副社長。2002年、日本オラクルへ復帰。専務として営業・マーケティング・開発にわたる総勢1600人の責任者となり、BtoBの世界の巨人、ラリー・エリソンと仕事をする。2004年にスティーブ・ジョブズと出会い、アップル・ジャパンの代表取締役社長に就任。iPodビジネスの立ち上げからiPhoneを市場に送り出すまで関わり、アップルの復活に貢献。
現在(株)コミュニカ代表取締役、(株)ヴェロチタの取締役会長を兼任。また、(株)Plan・Do・See、(株)エスキュービズム、(株)リザーブリンク、(株)Gengo、(株)F.A.N、(株)マジックハット、グローバル・ブレイン(株)の顧問を務める。その他、私塾「山元塾」を開き、21世紀の坂本龍馬を生み出すべく、多くの若者へのアドバイスと講演活動を行っている。
著書に『ハイタッチ』『外資で結果を出せる人 出せない人』(共に日本経済新聞出版社)、共著に『世界でたたかう英語』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)がある。