人材育成としての「内定者フォロー」が、内定辞退と早期離職を減らしていく

来春(2025年4月)に企業に入社する「25卒生」は、ストレートで大学に進学し、学部生としての4年間で卒業予定であれば、高校3年時に、“夏の甲子園”が唯一なかった学年(2002年4月生まれ~2003年3月生まれ)だ。つまり、新型コロナウイルスの影響を大学受験時にまともに受けた世代である。そんな彼・彼女たちが企業から入社の内定を受け、あと半年あまりで社会に飛び立とうとしている。自分たちが置かれる環境の変化に敏感な彼・彼女たちに対して、受け入れ側の企業は、いま、この時期に、どのようなフォローを行えばよいか。「内定者フォロー」のセミナーを開催し、さまざまな企業の人事担当者と接点を持つ有識者(御明宏章さん)に、「HRオンライン」が話を聞いた。(ダイヤモンド社 人材開発編集部、撮影/菅沢健治)

複数の内定を持つ学生と就職活動の長期化

 コロナ禍の影響が落ち着いた2024年は、企業の採用活動も活発に行われるようになった。結果、学生の内定取得率が高い状況とともに、「内定辞退」も増えている。そのため、企業の人事・教育担当者は、内定期間中に学生を適切にフォローし、不安なく入社してもらうための施策が不可欠だ。

 25卒生(2025年3月卒業予定者)の内定(内々定)期間である今年(2024年)の7月と8月に、企業の人事担当者を対象にした、「内定期間から始まる若手育成! 効果的な内定者フォロー」と題するセミナー(参加費無料)がオンラインで開催された。そこで、その講師役を務めた御明宏章(みあかしひろあき)さん(ダイヤモンド社 HRソリューション事業室)にセミナー終了後に話を伺った。

 セミナーの冒頭で、御明さんは学生対象のアンケート結果(*)を紹介し、「学生の内定獲得時期が年々前倒しになり、(2024年)6月末の時点で、過半数以上の学生が内定を取得し、すでに就職活動を終了している。就活中の学生も、その多くが1社以上の内定を保有している」と説明した。

* ダイヤモンド・ヒューマンリソース「2025卒採用・就職活動の総括」より

御明 「就職活動を終えた」と回答している学生の中には、入社しない企業の内定を持ったままの学生もいるため、今後、多くの「内定辞退」が出てくることが予想されます。複数の内定を持つことは、私が学生だったバブル期でもよくあることでしたが、当時に比べると、いまは、企業側に多人数を受け入れる余裕がなく、採用枠を絞っているケースが目立ちます。そうした状況で「内定辞退」されてしまうことは、企業にとって大きな痛手になります。

 かつて、複数の内定を持つ学生は、内定式が一般的に行われる10月1日までには、入社しない企業の内定を断るのが常識だった。しかし、近年は、10月以降も複数の内定を持ったままの学生が少なくないという。就職活動をなかなか終わらせず、「内定辞退」をしないのだ。

 御明さんは、HR業界での仕事を20年近く続け、人事担当者向けのセミナーをはじめ、人材採用や教育事業に深く関わっている。日々、さまざまな企業の人事担当者と電話やメールでやりとりを続けているが、昨今、その内容は、「内定辞退」に関することが多くなっているようだ。今回のセミナーで披露された、「採用活動で困っていること」の企業の回答にも、「内定辞退」に関する悩みが浮き彫りになっている。

御明 まず、「応募母集団の形成がうまくいかないこと」が多くの企業の悩みになっています。売り手市場ということもあって、中小企業や知名度の低いBtoBの企業などは、学生がなかなか集まらないのです。そして、25卒対象で数字を大きくした回答が「内定の歩留まりが読みにくい」でした。それは、「内定辞退」が理由で、近年の採用市場における、人事担当者のいちばんの悩みといっていいでしょう。