「あなたは職場で、働くリズムのズレを感じていませんか?」
そう語るのは、これまでに400以上の企業や自治体等で、働き方改革、組織変革の支援をしてきた沢渡あまねさん。その活動のなかで、「人が辞めていく職場」には共通する時代遅れな文化や慣習があり、それらを見直していくことで組織全体の体質を変える必要があると気づきました。
その方法をまとめたのが、書籍『組織の体質を現場から変える100の方法』です。社員、取引先、お客様、あらゆる人を遠ざける「時代遅れな文化」を変えるためにできる、抽象論ではない「具体策が満載」だと話題。この記事では、本書より一部を抜粋・編集し、「働くリズムが偏っている職場」の問題点について指摘します。

家庭を持つ優秀な社員が次々に去っていく。「人が辞めていく組織」の共通点・ワースト1特定のリズムに振り回されていないか?(イラスト:ナカオテッペイ)

働く時間帯が遅い組織

 勤める人たちの平均年齢が若い、とあるベンチャー企業での話だ。
 経営陣は全員30代で、社員も20~30代かつ単身者が多い。若くて活気やスピード感があるのはよいが、その一方で全体的に朝の始まりが遅く、夜も遅くまで仕事をしている人が多い。ある部署では11時に出社する人も。それでもまだ早い方で、13時くらいに出社して22時近くまで勤務する人もザラだという。

 会社が小規模なうちはそれでもよいだろう。本人だけで完結する個人作業に取り組む分には問題ない。似通った行動特性、ライフステージの人たちが共通の心地よい時間やリズムで仕事をする。その方が効率もよい。
 ところが、関わる人数が多くなるとそうもいかなくなる。

「全体的に朝も夜も遅すぎて、家族持ちにはつらい……」

 このベンチャー企業に勤務する40代社員の痛切な声である。他には、次のような声も。

「午後にならないと確認や回答をしてもらえない」
「夕方に会議を入れられる」
「夜遅くに仕事を振られる」

 いずれも子育てをしている人、家族が朝型で動いている人、夜に学校に通っている人、通院している人、複業や兼業をしている人などにとっては大きな負担になる場合がある。

夜型の働き方はなにかと不便

 地方支社勤務、あるいは地方都市在住のためリモートワークで都市の企業に参画している人で、夜型の勤務リズムのつらさを訴える人も少なくない。

 規模にもよるが地方都市は大都市と異なり、スーパーマーケットや飲食店、医院などが夕方の早い時間に終わってしまうところが多い。東京都心、および若手(とも限らないが)の夜型の勤務リズムに引っ張られてしまうと、買い物も外食もできなくて詰む。

 遅くまで働くビジネスパーソンに寄り添った延長保育などのサービスがある地域も限られている。インフラやサービスそのものが、地域の主力産業、たとえば製造業や農業などに合わせて朝型で設計されているためだ。

同質性が高い組織は少数派のつらさがわからない

 大多数の人が都市部在住、単身者、健康体、専業者など、ライフステージやライフスタイル、および体のコンディションなどの同質性が高い組織ほど、悪気なくマイノリティ(少数派)の気持ちやペイン(痛み)がわからない。そして当たり前のように、マイノリティの人たちやその家族にとって窮屈なリズムで活動が行われることがある。

 マイノリティの本人たちも声を上げればいいのに、「これが組織の文化だから」「当社のカルチャーだから」と思い込んであきらめてしまう。
 
または生活リズムを崩して、体調に異常をきたしたり、家族関係がギクシャクして退職する人もいる。そしてさらに組織の同質性は高まり、思考や価値観も凝り固まっていく。この悪循環は組織も本人も幸せにしない。

「当社のカルチャーだから」とあきらめていては何も変わらない。それに、あなたと同じ境遇で苦しんでいる人が他にもいるかもしれない。あなたの後に入った人が同じ苦労をするかもしれない。それは組織が望むところではないであろう。