とらや虎屋では、約250年の歴史を持つ生菓子『寒紅梅』の製造過程を視察した=2024年6月18日、東京都港区 写真提供:Ashley Whillans

 私はずっと、なぜ日本の製品やサービスはこれほど高品質なのかと疑問に思っていましたが、今回の研修旅行で、その理由が日本独自の文化や価値観にあることを学べたのは大きな収穫でした。

 日本企業の経営者や社員の方々と意見交換する中で実感したのは、企業文化を変革するとは、すなわち、会社、そして、社員のアイデンティティーを再定義することである、ということです。

 人事制度や組織を変革しようとすれば、社員一人ひとりに「自己刷新」を求めなくてはなりません。「変えるのはいやだ」と感情的に反対する社員もいれば、「変えるのが難しい」と思う社員もいれば、「これはすばらしい機会だ」とやる気になる社員もいるでしょう。

 また、多くの日本企業が、現在、組織変革、人事制度変革の真っ只中にあることも知りました。

 私たちは日本企業である。しかし、海外進出に伴ってグローバル化をしなくてはならない点が多々出てきた。では、私たちの企業は何を残して、何を変えるべきなのか――こうしたことを社内で議論しながら、試行錯誤を繰り返している最中にあるようにも見受けられました。

 さらに、日本企業の経営者がどのような危機感を持って日々の決断をしているのかについても深く理解できたと思います。中でも長寿企業の経営者は、何百年と愛されてきた製品やサービスを維持しながらも、時代に合った変革を起こしていかなければなりません。どれほどの重圧の中で日々の決断をしているのかは、実際にお話を聞かなければ、分からなかったと思います。こうした学びを今後の研究にフルに生かしていきたいと思っています。

佐藤智恵(さとう・ちえ)
1970年兵庫県生まれ。1992年東京大学教養学部卒業後、NHK入局。ディレクターとして報道番組、音楽番組を制作。 2001年米コロンビア大学経営大学院修了(MBA)。ボストンコンサルティンググループ、外資系テレビ局などを経て、2012年、作家/コンサルタントとして独立。主な著書に『ハーバードでいちばん人気の国・日本』(PHP新書)、『スタンフォードでいちばん人気の授業』(幻冬舎)、『ハーバード日本史教室』(中公新書ラクレ)、『ハーバードはなぜ日本の「基本」を大事にするのか』(日経プレミアシリーズ)、最新刊は『コロナ後―ハーバード知日派10人が語る未来―』(新潮新書)。講演依頼等お問い合わせはhttps://www.satochie.com/