アシュリー・ウィランズハーバードビジネススクール准教授のアシュリー・ウィランズ氏 (C)Evgenia Eliseeva

ハーバードビジネススクールのアシュリー・ウィランズ准教授は、2024年6月、同校の研修旅行で日本を訪れた。「働き方・時間の使い方と幸福の関係」を研究しているウィランズ氏は、日本企業の「ある傾向」に課題を感じたという。日本企業が抱える働き方の課題とは何か。また、今回さまざまな日本企業を訪問する中で学んだこととは?(取材・構成/作家・コンサルタント 佐藤智恵)

>>前編『ハーバードの教員たちが“コンビニ飯”に大感動!やみつきになった「意外な食べ物」とは』から読む

日本企業が模索する
「伝統」と「革新」のバランス

アシュリー・ウィランズアシュリー・ウィランズ(Ashley Whillans)/ハーバードビジネススクール准教授。専門は行動科学及び社会心理学。特に非金銭報酬が社員のモチベーションや幸福感に与える影響について研究。同校のMBAプログラムにて選択科目「モチベーションとインセンティブ」を担当。日本のベンチャー企業の報酬制度を題材とした「Social Salary Setting at Spiber」をはじめ数多くのケース(教材)を執筆。近著に『TIME SMART お金と時間の科学』(東洋経済新報社)。 (C)Evgenia Eliseeva

 研修期間中は多くの日本企業の経営者と話す機会がありましたが、「社員には革新的なアイデアをどんどん出してほしいと思っているが、失敗を恐れて、なかなか出てこないのが課題だ」と言っていた経営者が何人かいたのが印象的でした。さらには、「社内から斬新なアイデアが出てこないので、仕方なく国内の他の企業やアメリカの企業に開発を任せているケースもある」といった話も聞きました。

 日本企業の中には、今も伝統的な階層型組織、縦割り型組織を維持している企業が数多くあります。上意下達の文化の中で育った社員は、「1つでも失敗すれば、昇進や報酬に響く」と考えて、リスクを取りたがりません。結果、企業は「保守的なアイデアは出てきても、革新的なアイデアが出てこない」という課題を抱え続けることになります。

 これはとても難しい問題だと思います。歴史が長ければ長いほど、企業も人も保守的になり、新しいことに挑戦するのが難しくなるからです。

 こうした課題を知るにつれて「日本企業は100年も続いてきた企業文化をどう変革していくのか」「伝統を尊重しながらも、革新的なビジネスを創出するにはどうしたらよいのか」「何を変えて、何を残し、最終的にはどのように“伝統”と“革新”のバランスをとって、成長していくべきなのか」といった点をもっと研究してみたいと思うようになりました。