「リング・リング・リング」の稽古が始まって千種は驚愕した。女子プロレスラーがプロモーターの酒の席に呼ばれて酌をする。ひどい時にはお座敷で試合までさせられる。あの人は女子プロレスなど見たこともないはずなのに、どうしてこんなことを知っているのか?

 つかこうへいもまた、長与千種に天性の表現者としての資質を見た。

「前を向いていなくてはいけないのが役者だが、こいつ(長与)は後ろを向いていても見せようとする。リングという四面の世界で見られてきたから、動きに無駄がない」

 だが、千種には心配なことがひとつあった。つかこうへい独特の長い台詞を覚えられる自信がまったくなかったのだ。ところが、実際に動きながら口立てで教えられると、不思議なほど台詞が入っていく。

「いいか千種、お前は明日のスターだ。そしてお前が、ストリップだゲテモノだと言われている女子プロレスを変えるんだ。お前はそのためにずっとプロレスをやってきたんだ。床の間に飾れるような“レディのプロレス”をやるんだ。自分たちがやりたい戦いができる場所を作れ」