ステップ7:タイトルづけの意図を聞いてみよう
末永 では、付箋の数が多かった3人に、どんな意図でタイトルをつけたのか聞いてみましょう。

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参加者1 タイトルは「巨大イカの群れとテディベア」です。

 ステップ4で視点を変えながら鑑賞するうちに、最初は花や草だと思っていたものがだんだん魚に見えてきて、途中からは巨大なイカにしか見えなくなりました。イカは淡水だと死んでしまうかもしれないですが、個人的にはイカがたくさん流れ着いた池のように思えました。

 さらに、池の奥の方に、クマの人形の鼻みたいに見える箇所があって、しだいにテディベアの顔にしか見えなくなりました。

 なので、イカがたくさん漂っている池の様子を、テディベアが奥から眺めている絵だと考えてみました。

末永 すごく面白い発想ですね。ありがとうございます! それでは次の方、お願いします。

参加者2 タイトルは「誰も知らない休日の学校」です。

 「誰も知らない」としたのは、この絵の中には生き物の気配があまりなく、人間も自分以外は誰もいない気がしたからです。また、自分1人でリラックスできる秘密基地のような空間にも感じられたので、「休日の学校」という言葉を思い浮かべました。

末永 素晴らしい! それでは、最後にもう1人お願いします。

参加者3 タイトルは「時間を忘れて」です。

 絵を観ていると、池のまわりで小鳥や虫が鳴いている、のどかな風景が頭に浮かびました。その連想から、この絵に描かれている場所に行けば、日頃の悩みや忙しい毎日から解放され、時間を忘れて清々しい気持ちになれると思ったので、このタイトルにしました。

末永 ご発表ありがとうございました! 大きな拍手をお願いします。

「社員全員に読んでほしくてまとめ買いしました」との声も!ビジネスパーソンがこぞって読んでいる異色の美術本が教える「自分の頭で考える力」が高まる“すごい方法”とは?参加者の皆さんが考えた作品タイトルは、大垣書店麻布台ヒルズ店にてイベント後約1週間展示しました。

 今日鑑賞した作品は、いまからちょうど120年前の1904年に、クロード・モネというフランスの画家が描いた油絵で、タイトルは「睡蓮」です。

 皆さんの中に「睡蓮」というタイトルをつけた人はいませんでしたが、全く問題ありません。モネが絵筆を振るって「睡蓮」を描いたのと同様に、皆さんも想像力をフル活用して作品を鑑賞し、想像の絵筆を振るって「自分だけの答え=オリジナルのタイトル」をつくりだしたからです

他人の意見を聞いて「考えた気」になってはいけない

末永 今回鑑賞した絵を含め、モネは睡蓮をモチーフにした作品を数多く描いていて、そのうちの1つが岡山県倉敷市の大原美術館にあります。あるとき、その美術館に来ていた4歳の男の子が「睡蓮」を指差して、こうつぶやいたそうです。

「かえるがいる」

 モネは、その絵の中にかえるを描いてはいません。でも、その絵を観た男の子は、自分の頭の中で「かえるがいる」と考えたわけです。さらに、その場にいた学芸員が思わず「どこにいるの?」と尋ねたところ、こう答えたそうです。

「いま水にもぐっている」

 私は、これこそが本来の意味での「アート鑑賞」だと考えています。その男の子は、作品タイトルや説明文といった情報に頼らず、彼にしかない視点で、「自分だけの答え」を出しているからです。

 同様に、今回皆さんが書き出した気づきや作品タイトルも、1つひとつがすべて「自分だけの答え」です。

 冒頭でお話ししたように、「自分だけの答え」をつくりだす能力は、アート作品を鑑賞するときにかぎらず、これからの時代において様々な場面で非常に役立ちます。

 もちろん、学校で教わったことや本に書いてあること、身近な人の意見なども大事ですが、それらは決して「唯一の答え」ではありません。多様な考え方に耳を傾けつつも、それに流されずに、「自分の答えは何か」ということを常に考え続ける必要があります

 今日の実践ワークのように、何かものごとを考えるときは、普段とは違う視点を意識したり、自分の感覚をいつも以上に研ぎ澄ましたりしながら、「自分だけの答え」をつくっていただけると嬉しいです。

(本稿は、『13歳からのアート思考』特別イベントのダイジェスト記事です)

末永幸歩(すえなが・ゆきほ)
アート教育実践家・アーティスト
武蔵野美術大学 造形学部 卒業。東京学芸大学 大学院教育学研究科(美術教育)修了。現在、東京学芸大学 個人研究員。
東京都の中学校の美術教諭を経て、2020年にアート教育実践家として独立。
「制作の技術指導」「美術史の知識伝達」などに偏重した美術教育の実態に問題意識を持ち、アートを通して「ものの見方の可能性を広げ、自分だけの答えを探究する」ことに力点を置いた授業を行ってきた。
現在は、各地の教育機関や企業で講演やワークショップを実施する他、メディアでの提言・執筆活動などを通して、生きることや学ぶことの基盤となるアートの考え方を伝えている。
プライベートでは一児の母。「こどもはみんなアーティスト」というピカソの言葉を座右の銘に、日々子どもから新しい世界の見方を教わっている。著書に、『「自分だけの答え」が見つかる 13歳からのアート思考』がある。