「意見や感想を聞かれても『いいと思います』しか言えない…」「常識にとらわれて、新しいアイデアが出てこない…」――こんな悩みを抱えている人はいま多いかもしれない。そこで役に立つのが、書籍『「自分だけの答え」が見つかる 13歳からのアート思考』だ。
アート思考とは、アート鑑賞を通じて「自分なりのものの見方」を養うメソッド。そのエッセンスを、20世紀アートを代表する6作品とともに学べる本書は、「子どもと一緒にアートを楽しみたくなった」「面白かったので友だちにあげて、自分用にもう1冊買った」との反響も呼んでいる。今回は、そんな本書から、内容の一部をピックアップしてご紹介する。(文・構成/ダイヤモンド社 根本隼)

自分の頭で考えずに「ググるだけ人」の浅さがバレる“決定的な瞬間”Photo:Adobe Stock

「自分の頭で考えるクセ」は失われていないか

 2008年にiPhoneが日本で発売されて以降、スマートフォン(スマホ)は私たちの生活に瞬く間に普及し、わずか15年でスマホの世帯保有率は9割を超えた。

 いまや街の至る所で、老若男女を問わずあらゆる年代の人たちが、スマホを手にもって何かを調べたり、SNSや動画を見たりしている。

 多くの人がネットにアクセスできる環境が整ったのは歓迎されるべきことだが、デメリットがないといえばウソになるだろう。ネット検索がいつでも可能になったことで、いま私たちは「自分の頭で考えるクセ」を失いつつあるかもしれないからだ。

 SNSの投稿やネットニュースを読んでも、自分なりの視点で考えることなく、リプライやコメント欄を見て満足する。もしくは、検索結果の最上位に表示された内容を、そのまま鵜呑みにして「答え」だと思い込む。こうした行動が、日常の一部になっていないだろうか。

「あなたはどう思う?」と聞かれたとき、思考の浅さがバレる

 パソコンやスマホがなかった時代は、何かわからないことが出てきたら、まずは自分なりの視点で思考していたはずだ。だがいまは、考えるよりも先にネットにアクセスして、検索エンジンにかける。一見便利なようで、「思考するクセ」が失われるリスクは小さくない。

 残念なことに、検索結果やコメント欄を見るだけの人は「あなたはどう思いますか?」と聞かれたとき、「ネットでは○○と言われている」という他人の受け売りや、「いいと思います」という当たり障りのない発言が多くなりやすい。思考の浅さが露呈するのだ。

 これは大人にかぎった話ではなく、脳の発達途上にある子どもにとっても「自ら考える習慣」がつかないのは大きな問題である。唯一絶対の正解がない時代だからこそ、「自分なりの答え」を生み出す思考力がより一層求められるからだ。

「アーティスト」が実践している思考プロセスとは?

 では、そうした思考力を身につけるにはどうしたらいいのだろうか? 本書によると、そのヒントになるのが「アーティストの考え方」だという。

「すべての子どもはアーティストである。問題なのは、どうすれば大人になったときにもアーティストのままでいられるかだ」

 これはパブロ・ピカソの有名な言葉です。ピカソがいうとおり、私たちはもともと、「自分なりのものの見方」で物事を考えるアーティスト性を持っていたはずです。


 しかし、「アーティストのままでいられる大人」はほとんどいません。おそらくは「13歳前後」を分岐点として、「自分なりのものの見方」を失っていきます。

 「アーティストのように考える」とはどういうことなのでしょうか? 結論からいえば、「アート」とは、上手に絵を描いたり、美しい造形物をつくったり、歴史的な名画の知識・ウンチクを語れるようになったりすることではありません。

 「アーティスト」は、目に見える作品を生み出す過程で、次の3つのことをしています。

①「自分だけのものの見方」で世界を見つめ、
②「自分なりの答え」を生み出し、
③それによって「新たな問い」を生み出す


 「アート思考」とは、まさにこうした思考プロセスであり、「自分だけの視点」で物事を見て、「自分なりの答え」をつくりだすための作法なのです。(P.11~13)

 このアート思考の実践として、本書では20世紀アートを代表する6作品を題材に、「自分なりの答え」をつくっていくノウハウを身につけられる。 

 特に、著者の末永さんおすすめの、作品を見て気づいたことや感じたことを声に出したり、紙に書き出したりする「アウトプット鑑賞」は誰でも簡単に実践できる。さらに、誰かと一緒にやると、自分では発想しないような気づきが得られ、思考の幅が広がるという。
 
 この夏、家族でアート鑑賞をし、感じたことや考えたことを話し合う機会を作ってみるのも面白いかもしれない。

(本記事は『「自分だけの答え」が見つかる 13歳からのアート思考』より一部を引用して解説しています)

末永幸歩(すえなが・ゆきほ)
アート教育実践家・アーティスト
武蔵野美術大学 造形学部 卒業。東京学芸大学 大学院教育学研究科(美術教育)修了。現在、東京学芸大学 個人研究員。
東京都の中学校の美術教諭を経て、2020年にアート教育実践家として独立。
「制作の技術指導」「美術史の知識伝達」などに偏重した美術教育の実態に問題意識を持ち、アートを通して「ものの見方の可能性を広げ、自分だけの答えを探究する」ことに力点を置いた授業を行ってきた。
現在は、各地の教育機関や企業で講演やワークショップを実施する他、メディアでの提言・執筆活動などを通して、生きることや学ぶことの基盤となるアートの考え方を伝えている。
プライベートでは一児の母。「こどもはみんなアーティスト」というピカソの言葉を座右の銘に、日々子どもから新しい世界の見方を教わっている。著書に、『「自分だけの答え」が見つかる 13歳からのアート思考』がある。