「共感的理解」が相手の存在価値を守っていく

 傾聴の3つ目の基本である「共感的理解」を相手に示せるようになるには「“同感”と“共感”の違いを理解することが必要」と小倉さんは言い、「“共感”のコツがわかると、話し手と聞き手の間に劇的な変化が訪れる」と説明する。

小倉 たとえば、プロ野球で、巨人ファンと阪神ファンの人がいるとしましょう。「相手チームのことを好きになれ!」というのは「同感しろ!」ということです。それは無理な話ですね。ただ、相手の話を聞きながら、「自分は巨人ファンだけど、なるほど、阪神ファンの情熱もわかるなぁ」と、巨人ファンのまま、阪神ファンの気持ちを理解することはできるはずです。それが「共感的理解」です。

 ビジネスシーンでの例をあげると……会議で、あなたはA案を、相手はB案を支持し、膠着状態になったとしましょう。B案に執着し、周りの声に聞く耳をもたない相手の心には、「どうして、私の考えをわかってくれないのだろう?」「なぜ、私の意見を否定するのだろう?」という怒りや悲しみが湧き上がっています。このとき、「私はA案を支持するけれど、あなたが言っていることはよくわかる。B案にもよさはあるし、そこを大事にするあなたの気持ちも理解できる」というふうに「共感的理解」を示せば、相手は不思議とA案でもB案でもどちらでもよくなるものです。自分の考えへの執着は自分の存在価値を守ることですから、B案を否定される、つまり、自分の存在価値を否定されればされるほど、執着が生まれるのです。でも、存在価値を認めてもらえれば、もはや、A案でもB案でもどちらでもよくなってきます。会議で生産的な議論ができるようになるのは、出席者の一人ひとりが執着を手放したときであり、「共感的理解」はビジネスの場でも大きな力を発揮するのです。