上司にありがちな分析癖とメサイアコンプレックス

 小倉さんは、企業研修などで、相手の感情を汲み取る方法を伝え続けているが、「部下の考えや気持ちがわからない」という声のあがることが多いという。そこには、上下関係があるからこその難しさもありそうだ。

小倉 上司にありがちな無意識の癖が2つあります。1つは、部下の話を聞くと、つい分析したくなること。他人の欠点やミスを指摘する人が「よく気がつく人」として評価されがちな社風の会社では、“分析癖”を身につけてしまっている人も少なくありません。もう1つは、部下を何とかして助けたいと思うこと。これは、心理学用語で「メサイアコンプレックス(救済者コンプレックス)」といいます。「相手を何とかして助けたい」という気持ちの根源には、自分自身の劣等感や不安感をなくしたいという欲求があることも見受けられます。

 こうした癖を持つ上司に対して、部下はありのままに話すことをためらいます。分析癖とメサイアコンプレックスに心当たりがある上司は、自分のそうした傾向に気づくことが大切でしょう。気づくことができれば、思考と行動との間にスペースが生まれます。「分析したい」と思った直後に行動していた方も、スペースによって、「分析していいのだろうか?」と一拍あけることができ、行動に移さないという選択肢を持ちます。癖になっていることを改善するのは難しいですが、成功体験を積んでいくとだんだんできるようになります。

 また、そうした癖はないのに、部下が「なぜ、この人は、他者の気持ちを汲み取れないのだろう?」と思ってしまう上司も存在する。

小倉 相手の気持ちがわからない人のなかには、自分の感情を封印している人がいます。自分の感情を封印すると、相手の気持ちや感情を拾えなくなってしまいます。感情を封印する人に私が伝えたいのは、“Don’t think, just feel”――「考えるな、感じろ」です。思考を止めて、ただ感じるだけの時間をつくること。とはいえ、ほとんどの人は思考する習慣があるので、「感じるだけ」は決して簡単なことではありません。思考を止めるトレーニングとしては、呼吸や地面に付いている足の裏の感覚に意識を集中させる方法があります。マインドフルネスとも言いますが、「いま、ここ」に集中すると、その瞬間、思考が止まって感情に意識が向くのです。日頃からそうした意識を持ったり、自分自身の感情を味わう素晴らしさに気づいたりすると、相手の気持ちや感情に自ずと意識が向くようになります。