上司と部下、知り合い、友人……対人関係を劇的に変える“すごい傾聴”とは?

いまや、多くの企業で1on1が導入され、管理職や上司には、マネジメントスキルのひとつとして「傾聴する力」が求められている。しかし実際のところ、部下と心を通わせることができずに困っていたり、“いい上司”だと思われたくて言動が空回りしてしまったりと、ビジネスパーソンの“1on1にまつわる悩み”は絶えない。心理学に裏付けられ、カウンセリングの場では必須とされる「傾聴」が、ビジネスの場では、「オウム返しをしながら、ただ頷いているだけのもの」と誤解されている側面もある。今回は、企業研修講師であり、心理療法家でもある小倉広さんに、聞き手自身のマインドも豊かにしていく傾聴の方法について教えていただいた。(ダイヤモンド社 人材開発編集部、撮影/菅沢健治)

「自己一致」「無条件の受容」「共感的理解」が基本

「傾聴」の基本は、聞き手自身が誠実で、ありのままの自分を受け入れる「自己一致」、話し手がネガティブなことを語っても無条件で受け止める「無条件の受容」、相手の目で見て、相手の耳で聞き、じんわりと感じ入る「共感的理解」の3つだと言われている。聞き手である上司がこれらを会得できれば、部下との1on1にも変化が生まれると、小倉さんは解説する。

小倉 「自己一致」「無条件の受容」「共感的理解」で、私が最も重要視しているのが「自己一致」です。“いい人”ぶった上司に部下も合わせて“いい人”ぶるうちに1on1を終えてしまうケースも多いでしょう。傾聴の目的のひとつは、「ありのままの自分でも大丈夫なんだ」と話し手に感じてもらうこと。そのためには、聞き手自身がありのままの姿を見せ、みっともない失敗も包み隠さないことが大切です。カッコつけないことがいちばんカッコいいのです。

 とはいえ、「部下の前で、ありのままなのは難しい」という上司が多くいらっしゃいます。そうした方は、失敗して、追い詰められて、「開き直るしかない」という経験をたくさんしてみるのもありでしょう。私自身、起業して社長をしていた時代、創業メンバー全員から辞表を出されたり、家賃を払えなくなるほど経済的に追い詰められたり、ありとあらゆる修羅場を経験しました。その結果、「(自分を守る)鎧を着ていてもしかたない」と吹っ切ることができました。修羅場を経験する機会がないという方には、好奇心をもって何にでも挑戦してみることをおすすめします。何らかの失敗がついてくるはずですから。

「無条件の受容」とは、相手の話を聞いて、個人的に同意したり、賛成したりすることではない。自分の主観とは関係なく、中立的に、「あなたはそう感じているのですね」と受け止めることだ。しかし、相手の発言が不快なときや、絶対に間違っていると思うときは受け止めることなどできない――そう考えて、「受容」できない人もいるだろう。

小倉 たとえば、1on1の場で、会社の経営に対する批判や組織への不平不満を高圧的な言葉でぶつけてくる部下がいたとしましょう。それを、そのまま「受け入れろ」と言われても、難しいのは当たり前です。でも、部下によるそうした言動は対処行動(コーピング)といって、その人が子どもの頃から身につけてきた“生き延びるための術”によることがほとんどです。“生き延びるための術”と考えれば、「この人は、相手を批判することで一生懸命に自分を守っている」と、優しいまなざしで受け止めることができるでしょう。言葉の裏側にあるその人の背景にフォーカスしていく――それが「無条件の受容」のための手段です。

小倉広

小倉広 Hiroshi OGURA

株式会社小倉広事務所 代表取締役
企業研修講師、心理療法家(公認心理師)

大学卒業後新卒でリクルート入社。商品企画、情報誌編集などに携わり、組織人事コンサルティング室課長などを務める。その後、上場前後のベンチャー企業数社で取締役、代表取締役を務めたのち、株式会社小倉広事務所を設立、現在に至る。研修講師として、自らの失敗を赤裸々に語る体験談と、心理学の知見に裏打ちされた論理的内容で人気を博し、年300回、延べ受講者年間1万人を超える講演、研修に登壇。「行列ができる」講師として依頼が絶えない。また22万部発行『アルフレッド・アドラー 人生に革命が起きる100の言葉』(ダイヤモンド社)など著作49冊、累計発行部数100万部超のビジネス書著者であり、同時に心理療法家・スクールカウンセラーとしてビジネスパーソン・児童・保護者・教職員などを対象に個人面接を行っている。東京公認心理師協会正会員、日本ゲシュタルト療法学会正会員。最近刊書籍『すごい傾聴』(ダイヤモンド社刊)。→すごい傾聴 | ダイヤモンド・オンライン diamond.jp)