“感情の一般化”は話し手を不快にすることもある
傾聴には、こうした「3つの基本」に加えて、相手の感情を汲み取っていくことが求められる。とはいえ、たとえば、同じ映画を観ても感想が人それぞれであるように、同じような経験をしても、感じ方は人によって異なるものだ。他人の感情を汲み取る難しさは、ビジネスシーンに限らず、日常生活のなかで誰もが痛感している。
小倉 相手の感情を汲み取っていくことは、先ほどお話しした“同感”と“共感”の話に通じます。相手が、「親が津波に流された」という話をしたとき、「私も親を不慮の事故で亡くしたから、その悲しみはよくわかります」と相手の体験を“一般化”し、共通点を主張する人がいます。しかし、言われた人は、「私とあなたの悲しみは違うのだから、ひとまとめにされたくない」と心を閉ざしてしまうかもしれません。「わかるよ、私も若い頃は同じ体験をした」と“一般化”する上司もいます。“一般化”は、よかれと思っての姿勢でしょうが、そうではなく、逆にそれぞれを特別な体験であると“個別化”したほうが本当の“共感”になるのです。話し手の体験と、聞き手である自分の体験をすり合わせて、「同じだね」と言うことは“共感”ではありません。傾聴で大切なのは、自分の個人的な体験を持ち出さずに相手の話を聞くことです。
では、どうすればよいのか?――相手の体験を“追体験”するように聞くのです。語り手の頭のなかにダイブして、その体験を一緒に味わっていく。スクリーンに映し出された話を、2人で見ているようなイメージです。そして、追体験しているときに何らかの感情が湧き起こってきたら、その感情を相手に伝えてみてください。「あなたの話をイメージしていたら、私は悔しくなってきたよ。もしかして、あなたはそのときにすごく悔しかったのでは?」と。もちろん、決めつけてはいけませんが、そうすることで、相手から「そうそう、あのときは……」という言葉が出てくるかもしれません。
相手の感情に寄り添って話を聞こうとしても、出来事だけを語って感情を見せない人もいるし、感情の動きそのものが乏しい人もいる。ビジネスシーンでは、そうしたタイプの部下との1on1で苦労している上司も少なくないだろう。
小倉 「ネガティブな気持ちは人に言うものではない」「我慢してこそ一人前」「感情を表すことはかっこ悪い」といった価値観で、不安や怒りなどのマイナスの感情を封じ込めている人は、喜怒哀楽すべての感情が薄れてしまっていることがあります。マイナスの感情とプラスの感情は表裏一体なので、一方だけを封じて一方だけを表すことはできません。だから、マイナスの感情を押し込めると、喜びやワクワク感といったプラスの感情も押し込めることになってしまいます。これは「アレキシサイミア」(失感情症)といわれる状態で、ビジネスパーソンにも多いです。鬱憤や不安を我慢して仕事をしているうちにエネルギーが出なくなってくるパターンです。そういう方にこそ、自分の感情を安心して出せる1on1の場が必要です。マイナスの感情をしっかり出せれば、プラスの感情も出るようになり、活力が湧いてきます。結果、それまで抑圧していた能力や個性も表に出てくるのです。
また、人は自分が経験した感情の幅の範囲内でしか相手の気持ちを想像できません。だから、感情が動かない人は狭い範囲に相手を当てはめてしまいます。「最近、ワクワクすることが減ったな」と思う方は、ネガティブな気持ちを溜め込んでいないかどうかを振り返ってみてください。