宅配王者のヤマトも苦戦
勝ち残る覇者は一体誰か

 物流業界のM&Aが活発化する背景には、物流会社同士が規模の利益を追い、主にメーカー系物流子会社の争奪戦を始めたのとは別の要因もある。海外マネーの流入だ。

 日本の物流業界には、自前倉庫などの資産を潤沢に持つ「アセットヘビー」な会社が多い。

 独DHLグループやデンマークのDSVなど、資本効率の良いグローバル物流企業の平均PER(株価収益率)21.6倍、平均PBR(株価純資産倍率)5.5倍に対し、国内陸運業全体の平均PERは14.6倍、PBRは1.1倍だ。その差は大きい。

 アセットがヘビーで資本効率が悪い上場企業に対しては、アクティビスト(物言う株主)に限らず、国や東証も改善要求を突き付ける時代だ。資産を売却し、その売却益をM&Aや成長投資に充てれば企業価値は高まる。そうした視点で物流企業に着目するファンドは、KKRやベインにとどまらない。

 それは、業界内で“食う側”の大企業であっても、業績と株価の低迷が続けば、たちまち“食われる側”に回ることを意味する。まさに今、そんな苦境に立たされているのが宅配最大手のヤマトホールディングスだろう。

 24年4~6月期の営業収益は前年同期比3.5%減の4056億円で、最終損益は101億円の赤字だ。通期の営業収益予想は400億円下方修正され、前期比微増の1兆7800億円にとどまる。ヤマトの株価は低迷し、時価総額は6000億円を割り込んだ。ヤマトより売上高が少ないライバルのSGの時価総額が1兆円規模であるにもかかわらず、である。

 ヤマトの最大の強みは、約18万人の従業員と約3000もの営業所を全国に張り巡らせた配送ネットワークにある。裏を返せば固定費が重く、単価が安い荷物を大量に運ぶ「豊作貧乏」であるが故に利益率が改善しない。

 そうした悪循環を打破すべくヤマトは今、インターネット通販最大手のアマゾンジャパンに「適正単価」を求める交渉に乗り出している。

 異業種の参入も相次ぐ。トヨタグループの日野自動車や伊藤忠商事は、新たな物流プラットフォーマー構想の実現に動き始めた。デジタルやドローンなど新技術を駆使したベンチャーも生まれている。

 今の物流業界は、生き残りを懸けて各社が群雄割拠する大再編時代だ。勝ち残る覇者は一体誰か──。