濃厚なダシや香りが人気なテールスープ。牛などのしっぽを煮込んだ料理だが、その奥深い味わいの理由はしっぽの骨格にあった。しっぽが専門の研究者が、しっぽの骨や筋肉の構造を詳しく解説するとともに、テールスープの骨が標本作りにうってつけである理由をユーモラスに語る。本稿は、東島沙弥佳『しっぽ学』(光文社新書)を一部抜粋・編集したものです。
テールスープを知るには
まずしっぽを構成する骨を知ろう
この間講演をしたときに、面白い質問をいただいた。
「テールスープはなぜ美味しいのですか?」
大人の方からの質問だったのだが、私はテールスープもこういったシンプルな質問も大好物である。テールスープがうまいわけ、そこにはもちろん作り手の愛情も存分に含まれているに違いないが、旨味成分への寄与という観点では、しっぽの中身のおかげである。
しっぽの動きを脳内で再現してみていただきたい。さて、皆さんの頭の中でしっぽはどんな風に動き回っているだろう。
ピンと立ったしっぽや、くねくね動くしっぽ、ぶるんぶるんと振り回すしっぽ。枝に巻きついたしっぽに、すいすいと水面を動いていくしっぽ。色々な動物が実に多様にしっぽを使うものだから、想像するだけできっと楽しい気分になってくるだろう。その魅力的な動きはいずれも、しっぽの中に骨と筋肉が存在しているおかげでなせる業なのである。
ではまず、しっぽの中にどのような骨があるのかについて、ご紹介するとしよう。
しっぽを構成する骨には、ざっくりといえば仙骨と尾椎の2種類がある(図2-2)。