「いや!こっち見てるわ!呪われる!」

 ひいと言って怖気づいた同級生は私の後ろに隠れたのだが、かの模型は一寸も動かずに虚空を眺めていた。

「大丈夫、大丈夫。これ、歩き回らへんし」

 私は笑いながら同級生に言った。私は準備室に入る度にその模型で遊んでいるが、別に動いた形跡はない。しかし、いくらそう言っても同級生は頑としてこれは歩き回るのだと聞かない。仕方ないので、私はとっておきの言い分を披露することにした。

「いや、歩き回らんよ。これ脚ないんやから」

 その模型は今でいうトルソー型で、四肢は備えていなかった。ついでに、開腹している上、古い模型なので、もし動き回ったら臓器をあちこちに落としてしまう。だから彼はじっとしているんだ、と説いた。怪談話を1つ葬ってしまった甘酸っぱい記憶である。

 と、このように全国の怪談話の中には模型や本物の骨格標本がひとりでに歩き回るというものがある。しかし、それは解剖学的にありえないのだ。骨に付着する筋肉を持たず、ただ骨同士がワイヤーでつながれている彼らは、歩きたくても歩けるわけがないのだ。