ヨハネの告白が示唆する
キリストとの相思相愛関係

 このような調子で、主キリストへの祈りはさらに長々とつづき、最後に次のように締めくくられる。

「あなたがあなたおひとりを愛しつつ潔く生きた者たちにお約束なさったことに与るようにさせて下さい」と。3度までも結婚を断念し、あなただけを愛してきたのだから、死してもなお「私と共におられて下さい」というのである。

 死を目前にして、自分が信仰に入ったいきさつをしみじみと振り返るヨハネの脳裏に焼き付いているのは、まさしくキリストとの愛である。

 もちろん、この祈りの基調をなしているのが、当初からキリスト教の根底にあるミソジニー(女性にたいする嫌悪や憎悪)と独身主義、処女と童貞の理想化であることに変わりはないのだが、それをほかでもなくヨハネその人の口を借りて語らせているのが、このテクストのポイントである。

 イエスこそがヨハネの結婚を思いとどまらせたのであり、そのイエスは、愛弟子のことを「私のもの」とまで言い切るのである。

 それゆえこの外典において、『ヨハネによる福音書』の決まり文句「イエスの愛しておられた弟子」が、戯画的に誇張されているのではないかとさえ疑われるほどである。