アメリカ・ヨーロッパ・中東・インドなど世界で活躍するビジネスパーソンには、現地の人々と正しくコミュニケーションするための「宗教の知識」が必要だ。しかし、日本人ビジネスパーソンが十分な宗教の知識を持っているとは言えず、自分では知らないうちに失敗を重ねていることも多いという。また、教養を磨きたい人にとっても、「教養の土台」である宗教の知識は欠かせない。西欧の音楽、美術、文学の多くは、キリスト教を普及させ、いかに人々を啓蒙するか、キリスト教を社会にいかに受け入れさせるのかといった葛藤の歴史と深く結びついているからだ。本連載では、世界94ヵ国で学んだ元外交官・山中俊之氏による著書、『ビジネスエリートの必須教養 世界5大宗教入門』(ダイヤモンド社)の内容から、ビジネスパーソンが世界で戦うために欠かせない宗教の知識をお伝えしていく。

歴史・美術・音楽・建築・文学…<br />「教養」を「本物の教養」にするためには「宗教」の知識が欠かせないPhoto: Adobe Stock

ローマ・カトリックのヴィジュアル戦略

 ユダヤ教は「神とユダヤ人」の契約。キリスト教は「〈父なる神+子なる神(イエス・キリスト)+聖霊の三位一体〉と人間」の間の関係です。

 ローマ・カトリックもこの原則に従うのですが、やがて三位一体と人間の間に聖職者が入るようになります。ローマ教皇をトップとするローマ・カトリックの聖職者たちです。

 なぜなら、イエスの説教をまとめた聖書は、ギリシャ語で書かれたものが五世紀にローマ帝国の言葉であるラテン語に訳されました。普通の人はラテン語がわかりませんし、識字率もかなり低い。直接、神の教えを読めないのですから、聖職者の話を聞いて、「神父様、すばらしいお話をありがとうございます」と受け取るしかなかったのです。

 さらに、カトリックは布教にあたって、もう一つの戦略を打ち出します。ユダヤ教同様、ローマ・カトリックでも偶像崇拝は禁じられていましたが、「字が読めないんだから、目で見て感じればいい」とばかりに聖書に関連する美術品を山のようにつくったのです。

 血を流し、磔にされたキリスト像。イエスを処女懐胎した聖母マリア像。昇天するキリストを取り巻く天使たち……。どれも見覚えのあるモチーフだと思います。「キリスト教とはこういうものですよ」というのを、字が読めない人たちに絵で伝え、「情感に訴えて信者にしよう」という狙いがしっかりありました。

 今日の西洋美術は、ユダヤ教やキリスト教から大きな影響を受けています。

 ビジネスパーソンが、教養の一つとして絵画に通じているのは大きなアドバンテージとなります。
宗教画は、ルネサンス以降も描かれました。たとえば、一七世紀のオランダの画家フェルメールもイエスとマリアが登場する宗教画を描いています。

 宗教画の背後のキリスト教が理解できなければ、西洋美術の根っこを知らないことになってしまうでしょう。