死の間際でヨハネが語った
「私は結婚したかったのに……」
ところで、とりわけ初期キリスト教の時代には、聖書のなかに収められている文書とは別に、外典や偽書と呼ばれる数多くの文書が記されたことは、皆さんもご存じであろう。
それらは、しばしば異端視されてきたものだが、本来キリスト教には正統とされてきたもの以外にも、いかに多彩な考え方があったのかを伝えてくれる貴重な証言になっている。
ことヨハネに関しても外典が存在している。2世紀の末に成立したとされる『ヨハネ行伝』がそれである(著者はもちろんヨハネ本人ではない)。
異端として排斥されたグノーシス主義の影響が濃いとされるこの『ヨハネ行伝』において、とりわけわたしたちの文脈で興味深いのは、死を覚悟したヨハネが、天にいる主キリストに向かって次のように祈る最後の数節(113-115)である。
そこには、自分が女性との交わりを断ち、3度も結婚を思いとどまったのは、キリストへの信仰のゆえであったことが切々と告白されているのである。