自分が開拓した乙社の実績が、B課長のものに?
8月下旬の昼休み、休憩室から部屋に戻る途中廊下を歩いていたAは、C専務に呼び止められた。
「A君、B課長ってすごいね。本社に来て3カ月もたたないうちに、乙社との大口契約を取り付けたとは。君のいい報告も期待しているよ」
「えっ?」
Aは首をひねった。
「乙社は自分が3年前から通っていたところだ。先週いよいよクロージングって時に、B課長に上司として同席してもらったけど、乙社を開拓して取引をまとめた自分の業績になるはず……これはおかしいぞ」
席に戻りパソコン作業の続きをしようとしたAのもとに、Dが慌てた様子でやってきた。
「A主任、聞いてください!私が3年越しに通い詰めてアプローチをかけていた丙社の件ですが、B課長が自分の手柄としてC専務に報告したんです。部下の手柄を横取りするなんてひどくないですか?許せない!」
「どうしてそう思うの?」
「さっきC専務に言われたんです。『B課長はここにきて間もないのに丙社との契約をとれたのはすごい。だから君も、もっと頑張れ』だって。ふざけるな!丙社を獲得したのはB課長じゃなくて俺なんです」
「じゃあ、B課長はクロージングに同席しただけ?」
「そうです」
B課長はC専務にはあたかも自分が新規開拓したかのように報告し、部下が獲得した新規の取引先を横取りし、自分の手柄にしていたのだ。Aはますます腹が立ったが、C専務の話だけでは横取りした確たる証拠がないので、B課長への確認はしばらく待つことにした。