「部下との関係がギクシャクしている」「チームにまとまりがない」「上司が強権的で不快だ」…。こういった”職場のネガティブな感情”を「妬み」「温度差」「不満」「権力」「信用」の5つに分け、それぞれの対処法をまとめた『武器としての組織心理学』という書籍が話題だ。最先端のエビデンスをもとに、マネジメントする側、される側それぞれに向けたアイデアが丁寧に書かれている。本記事では、本書をもとに「自分の身を守ってくれる防具にも、人を動かす武器にもなる組織心理学」の活用法をご紹介する。(構成:瀬田かおる)

武器としての組織心理学Photo: Adobe Stock

信頼を失うのは「あっ」という間

「自分のチームは良い人間関係をつくれているから安心だ」

 リーダーがこんな気持ちで油断していると、それが命取りになる。

 お互いに信頼できる関係をつくれていても、信頼は「あっ」という間に失われることがあるのだ。

 たとえば、第三者を通じて自分の悪口を聞かされた場合。これは「ウィンザー効果」といい、面と向かって批判されるよりもインパクトが大きいという。

 また、部下によるミスの隠蔽が発覚し仕事が危機的な状態に陥った場合もそうだ。

 信頼して仕事を任せていた部下がミスをし、それを隠していた。上司は裏切られたショックと怒りで一気に部下への信頼をなくしてしまうだろう。

 また「自分の手柄を上司が横取りした」「自分のミスを部下になすりつけて平然としている」など、上司にあるまじき行動は言うまでもなく部下からの信頼を一瞬で失ってしまう。

 この時に生じたネガティブな感情を放置しておくと、心身の不調にすらつながるので対策が必要になる。

失った信頼を修復する2つのアクション

 壊れた信頼関係を取り戻すことは不可能なのだろうか?
 
 その答えについて、山浦氏はこう明言している。

答えは、戻すことはできる、その方法さえ間違わなければ。そして、あなたに修復したいと思う気持ちがある限りは(P.202)

 本書に掲載されている「失った信頼を修復する2つのアクション」をここで紹介しよう。

アクション① 謝罪する・赦す

 2005年12月8日に起きたサウスウエスト航空1248便の事故。1人の死亡と13人が負傷した大惨事となった。

 数時間後、サウスウエスト航空CEOのゲイリー・ケリーは会見を行った。

 内容は、心からの謝罪と誠心誠意、被害者への支援や事故調査究明に対応することを約束したものだった。

 このケリーCEOの会見は「素早く」「思いやりに満ちていた」と評価され、なんと翌年には過去最高の収益をあげた。

 この事例から、コロンビア大学ビジネススクールのアダム・ガリンスキー教授とペンシルベニア大学ウォートン校のモーリス・シュバイツァー教授は、「謝罪を成功させる要素」として次の6つのポイントを挙げている。

 1.素早く謝罪する――ミスを犯したときには、スピードが何より肝心だ
 2.言い訳をしない――謝罪は率直でなければならない
 3.弱い立場を受け入れる――一度失った信頼を取り戻すときにも、自分を弱い立場にすることは重要な要素だ
 4.相手の立場に立つ――謝罪では相手の立場に立つことが肝心だ
 5.変化を約束する――今後どうするかを明確に示すことが大切だ
 6.贈り物で”償い”のシグナルを送る――贈り物は人間関係を修復する過程で大きな役割を果たし、お詫びの気持ちをわかりやすく伝えてくれる(P.205) 

 悪いことをしたら「ごめんなさい」と言うことは子どもでも知っていること。しかし、大人になり権力を手にするほど、素直に言えなくなる。

 その理由は「ごめんなさい」という謝罪は自分の立場を低めることで成り立つ行為だからである。

 これは感謝の言葉「ありがとう」も同様だ。

 サウスウエスト航空のケリーCEOの謝罪は、体面など気にせず、心からの対応をしたことが相手に伝わり、関係の修復につながったのだ。

 また、「相手を赦せるか」についても山浦氏はふれている。

 信頼していた相手に裏切られた場合、ショックは計り知れず簡単に赦すことはできない。

 やり返したり、関係を絶つことも考えるかもしれないが、それは最善の策ではないと山浦氏は言う。

 相手の反応や反省の態度が見られたら潔く相手を赦す。いつまでも怒りを持ち続け拒否し続けると、かえって関係をこじらせかねない。

アクション② 相談を持ちかける

 ギクシャクした関係を何とかしたいと思う上司。しかし、やらなければいけない仕事は山積みで、それどころではない。

 部下のことは放っておきたいところだが、それではチーム全体の雰囲気が悪化しかねない。

 そんなときに有効なのが、部下に「仕事上の相談を持ちかける」ことだ。

 驚いたことに、その上司のことを良く思っていなくとも、上司から相談される部下ほど、職場の仲間たちを頻繁に手助けするというのだ。

 それはなぜかというと、評価者である上司に頼られ、自分の意見を聞いてくれたということが部下の自尊心をくすぐる行為だからである。

 権力を持つ人間にとっては、プライドが邪魔して「相談するという行為」は難しいことかもしれない。

 しかし、これも「リーダーの力量を試されているのだ」と思えば、ムダなプライドも捨てられるかもしれない。

相談するとき上司が絶対に言ってはいけない言葉

 部下に相談するときに注意すべき点がある。それは「交換条件をつけること」だ。

「君が私の頼んだ仕事をしっかりやってくれたら、そのときには考えてみるよ」といった交換条件をつけて相談をすると、「不誠実さ」を部下は感じてしまう。

 やはりここでも、リーダーには誠実な対応が求められている。

 最後に本書から、フォード・モーターの創始者、ヘンリー・フォードの言葉を紹介しよう。

人が集まってくることが始まりであり、 人が一緒にいることで進歩があり、 人が一緒に活動することが成功をもたらす(P.5) 

 成功への近道は、より良い人間関係の構築にあるのだ。