「アンパンマンを見る時間も知的インプットに変えられる」
そう話すのは、インプットの最強技法と意識改革をまとめ、大手書店でベストセラーランキング上位にランクインしている書籍『インプット・ルーティン 天才はいない。天才になる習慣があるだけだ。』の著者・菅付雅信氏。
菅付氏は坂本龍一や篠山紀信などの天才たちと数々の仕事をこなし、下北沢B&Bでの<編集スパルタ塾>、渋谷パルコの<東京芸術中学>、博報堂の<スパルタ塾・オブ・クリエイティビティ>や東北芸術工科大学でクリエイティヴについて教えている。
本連載ではその菅付氏に、クリエイティヴの本質についてさまざまな角度から語っていただく。第9回は、子育てで忙しい人に向けて、子どもと過ごす時間を知的インプットに変え、親子でクリエイティヴィティを高める方法を3つ提案する。(聞き手、文/ミアキス・梶塚美帆、構成/ダイヤモンド社書籍編集局)
①アンパンマンやトトロは何のメタファーかを考える
子育て中の読者は「インプットなんてしている時間はない」という方も多いでしょう。そんな方に向けて、子育て中の時間を知的インプットに変える方法を提案します。
子どもが気に入っている「アンパンマン」や「となりのトトロ」を何度もくり返し見せられるという話をよく聞きます。
そんなとき、たとえばアンパンマンなら「どうしてアンパンマンは自分の顔を人にわけてあげると思う?」「どうしてアンパンなんだろうね?」などと子どもと一緒に考えてみてください。子どもだけでなくあなたにとってもよい知的会話になるはずです。
まだ子どもが喋れない年頃なら、あなた自身の考えを深めてみてください。やなせたかしは明快な思想を持ってアンパンマンを描いているので、考えがいのあるテーマだと思います。
宮崎駿もそうです。彼の作品に出てくるものは様々なメタファー(暗喩)です。「『風の谷のナウシカ』の腐海ってどういう意味なんだろうね?」「『千と千尋の神隠し』に出てくるカオナシってキャラクターは、何の例えだと思う?」といったように、子どもと考えたり、想像力を働かせたりしながら見てみるといいでしょう。
クリエイティヴとは、とどのつまり、なんらかのメタファーを読み取って、それを自分なりのメタファーに変換して世に出す行為です。ですので、幼い時からメタファーを読み解くことを面白がれるアタマを培うことが大事です。
常に良質なメタファーをインプットし、読み解き、子どもに教えられる力はとても重要な教育力だと思います。
②絵本作家の大人向け作品も調べてみる
子どもに絵本を選んであげたり、読み聞かせをしたりしますよね。
子どものお気に入りの本があったら、その作家について調べてみるのもおすすめです。絵本作家が、児童小説や大人向けの小説、詩集、エッセイなども出していることはよくあります。
やなせたかしであれば、自伝的作品の『やなせたかしおとうとものがたり』や『アンパンマンの遺書』、インタビュー集『何のために生まれてきたの?』などを読んでみると、新しい知的インプットがあるかもしれません。
もし気に入ったら、子どもが成長してからその本を勧めてあげてもいいでしょう。
一冊の絵本をきっかけに、インプットの幅をどんどん広げていくのです。
③「頭の背伸び」を習慣化する
子どもをクリエイティヴにするために、もうひとつ大切な考え方は「子どもを子ども扱いしない」ということです。
子どもは驚くほど旺盛な好奇心を持っています。そして好奇心を抱いた領域では、周囲が的確な案内や推薦をしてあげれば、貪欲にその領域の知識を得ようとします。
深掘りしたくなる領域がひとつでもあると、子どもの「頭の背伸び」がダイナミックに始まります。すると「この子の年齢なら、このくらいのものを読んだり、見たり、聞いたりしていれば十分」と大人が判断して与えたものに、子どもは満足しなくなります。好奇心の成長に、年相応ということはないのです。
私が出会ってきた内外のトップ・クリエイターの多くは、ある意味マセた子どもたちだったようです。大人っぽいものに小さい頃から強い興味を持って、「子ども扱いされたくない」と決意し、思い切り「頭の背伸び」をしてきた人たちなのです。
日常のルーティンという点では、たとえば、子どもに新聞を読ませてみてはどうでしょう? 実は私は小学校低学年から父親の強い勧めで新聞を読まされていました。当然、最初は知らない言葉のオンパレードで面食らったわけですが、毎日読まされるので、急速に新聞に載っている語彙を吸収していきました。そうするうち、夕食時にテレビのニュースや新聞記事をネタにして、親と一緒に社会や政治の話ができるようになったのです。
この話を他のクリエイターにすると、実は同じように育った人がけっこう多いことを知りました。第一線のクリエイターの親の多くは、子どもを子ども扱いしていないのです。
「子どもは自分の半径10メートルくらいのことしか知らない/わからない」というのは悪しき幻想です。良きそそのかしや誘導をすれば、子どもはその恐るべき潜在能力で、興味のある物事の知識や語彙を一気に獲得します。そして、大人と同様の目線で語れるようになるのです。
親も子どもに「これってどういう意味だろう?」「君はこれについてどう思う?」と聞くことを心がけましょう。そして子どもからの「これはどんな意味?」といった質問に積極的に答えていきましょう。
なんとなくテレビやネットを見て、深い意味も理解できず情報が素通りしている状態ではなく、見たり読んだりするコンテンツを意識的に選択し、「これはどういう意味か?」について親子で語り合うことをルーティン化してください。「なんとなく知っている」のではなく、子どもの「わかる」頭を育てていってほしいと思います。
親が子どもと日常的に行うインプット・ルーティンこそが重要なのです。
(本記事は『インプット・ルーティン 天才はいない。天才になる習慣があるだけだ。』の著者・菅付雅信への特別インタビューをまとめたものです)
編集者/株式会社グーテンベルクオーケストラ代表取締役
1964年宮崎県生まれ。『コンポジット』『インビテーション』『エココロ』の編集長を務め、現在は編集から内外クライアントのコンサルティングを手がける。写真集では篠山紀信、森山大道、上田義彦、マーク・ボスウィック、エレナ・ヤムチュック等を編集。坂本龍一のレーベル「コモンズ」のウェブや彼のコンサート・パンフの編集も。アートブック出版社ユナイテッドヴァガボンズの代表も務め、編集・出版した片山真理写真集『GIFT』は木村伊兵衛写真賞を受賞。著書に『はじめての編集』『物欲なき世界』等。教育関連では多摩美術大学の非常勤講師を4年務め、2022年より東北芸術工科大学教授。1年生600人の必修「総合芸術概論」等の講義を持つ。下北沢B&Bにてプロ向けゼミ<編集スパルタ塾>、渋谷パルコにて中学生向けのアートスクール<東京芸術中学>を主宰。2024年4月から博報堂の教育機関「UNIVERSITY of CREATIVITY」と<スパルタ塾・オブ・クリエイティビティ>を共同主宰。NYADC賞銀賞、D&AD賞受賞。