「SNSやYouTubeを見るのは知的インプットにはならない」
そう語るのは、インプットの最強技法と意識改革をまとめ、大手書店でベストセラーランキング上位にランクインしている書籍『インプット・ルーティン 天才はいない。天才になる習慣があるだけだ。』の著者・菅付雅信氏。
菅付氏は坂本龍一や篠山紀信などの天才たちと数々の仕事をこなし、下北沢B&Bでの<編集スパルタ塾>、渋谷パルコの<東京芸術中学>、博報堂の<スパルタ塾・オブ・クリエイティビティ>や東北芸術工科大学でクリエイティヴについて教えている。
本連載ではその菅付氏に、クリエイティヴの本質についてさまざまな角度から語って頂く。第5回は、彼が「一流のクリエイターはトレンドを掴む必要はない」と力説する理由について。(聞き手、文/ミアキス・梶塚美帆、構成/ダイヤモンド社書籍編集局)

SNSやYouTubeを見ることは暇つぶし「killing time」Photo: Adobe Stock

賞味期限の短いコンテンツは見るだけ無駄

 SNSやYouTubeなどをチェックすることは、知的インプットにはなりません。一流のクリエイターや天才を目指す人はやらなくていいことです。

 理由を説明します。

 映画なら、企画から公開まで数年はかかります。今の空気感を掴んでいても、数年先の空気感はわかりませんよね。将来何がヒットするか予測するのは非常に難しいのです。大作映画は、トレンドに乗るのではなくもっと大きな射程で考えて作られています

 僕が編集するアートブックや写真集もそうです。これらは時流にピッタリ合わせて作るものではありません。

 今の時代に合ったクリエイティヴのトーン&マナーというのは、賞味期限が悲しいほどに短いのです。ですから、インターネットを見て時代の空気を掴むよりも、もっと大きな歴史の文脈を読むことが必要です。

 たとえばアーティストなら、美術史の文脈を読み解くことのほうがはるかに大事になります。SNSを追いかける時間があるなら、文献を漁るべきだし、図書館や美術館に通うべきです。トレンドよりももっと長いスパンの世界の文化的潮流がどうなっているかを考えるのです。

クリエイターにマーケティングはいらない

 一方で時代の空気を掴むことは、マーケティングをやっている人にとっては有効です。

 現代は人類の歴史が始まって以来のマーケティングがやりやすい時代だと思います。スーパーやコンビニなら、全国で何がどれくらい売れたかすぐにわかりますし、マーケティング・データの情報収集力が格段に上がっている時代になっています。コンビニを重視した商品キャンペーンを企画したり、直近に販売する商品を考えたりする人にとっては、最高にプランニングしやすい時代でしょう。

 しかし、天才と呼ばれる人や一流のクリエイターの仕事は、それとは少し違います。発表したものが歴史に残るかどうかが最重要だからです。

 そうなると、デイリーなマーケティングのデータは不要なのです。

息抜きにSNSを見るぐらいなら、寝よう

 息抜きは必要です。ただし、息抜きという言葉に含まれる「休息」と「暇つぶし」の違いには敏感になったほうがいいでしょう。

 日常におけるいちばんの休息は睡眠です。SNSやYouTubeを見ることは暇つぶしだと僕は思います。暇つぶしは英語では「killing time」と言います。つまり「時間を殺す」という意味です

 僕がこれまで見てきた一流のクリエイターたちは、決して暇つぶしをしません。自分の貴重な時間を殺したりはしないのです。オンとオフがはっきりしていて、オンのときは隙間時間もハードな知的インプットに費やしています。そしてオフのときはしっかり休んでリラックスに徹します。

 あなたがSNSやYouTubeを見ている時間は「休息」か「暇つぶし」か? 一度考えてみるといいでしょう。

(本記事は『インプット・ルーティン 天才はいない。天才になる習慣があるだけだ。』の著者・菅付雅信への特別インタビューをまとめたものです)

菅付雅信(すがつけ・まさのぶ)
編集者/株式会社グーテンベルクオーケストラ代表取締役
1964年宮崎県生まれ。『コンポジット』『インビテーション』『エココロ』の編集長を務め、現在は編集から内外クライアントのコンサルティングを手がける。写真集では篠山紀信、森山大道、上田義彦、マーク・ボスウィック、エレナ・ヤムチュック等を編集。坂本龍一のレーベル「コモンズ」のウェブや彼のコンサート・パンフの編集も。アートブック出版社ユナイテッドヴァガボンズの代表も務め、編集・出版した片山真理写真集『GIFT』は木村伊兵衛写真賞を受賞。著書に『はじめての編集』『物欲なき世界』等。教育関連では多摩美術大学の非常勤講師を4年務め、2022年より東北芸術工科大学教授。1年生600人の必修「総合芸術概論」等の講義を持つ。下北沢B&Bにてプロ向けゼミ<編集スパルタ塾>、渋谷パルコにて中学生向けのアートスクール<東京芸術中学>を主宰。2024年4月から博報堂の教育機関「UNIVERSITY of CREATIVITY」と<スパルタ塾・オブ・クリエイティビティ>を共同主宰。NYADC賞銀賞、D&AD賞受賞。