その後、少しは名誉棄損裁判への理解がある弁護士も出てきましたが、弁護士にとって裁判官は絶対に敵に回せる存在ではありません。ですから、裁判官の心証や、早く裁判を終結しなければならないといった彼らの立場が裁判に与える影響に深く言及し、裁判の行方を予想するコメンテーターは、ついに出てきませんでした。
中には、松本ファンと一緒になって、週刊誌があるから「些細」な悪事が報じられ,そのために才能のある人間が消えている、週刊誌にもっと高額の賠償金を支払わせろといった「被害者無視」の主張をする人も増えました。しかし今回の訴訟取り下げで、週刊誌の取材の緻密さがおわかりいただけたと思います。
「謎」が多すぎる終幕
その裏側を見通す
以上、私が指摘してきたことを踏まえつつ、今回の訴訟取り下げの「謎の部分」について述べたいと思います。
まず、松本人志氏側のコメントを引用してみます。
「(前略)松本が訴えている内容等に関し、強制性の有無を直接に示す物的証拠はないこと等を含めて確認いたしました。そのうえで、裁判を進めることで、これ以上、多くの方々にご負担・ご迷惑をお掛けすることは避けたいと考え、訴えを取り下げることといたしました。松本において、かつて女性らが参加する会合に出席しておりました。参加された女性の中で不快な思いをされたり、心を痛められた方々がいらっしゃったのであれば、率直にお詫び申し上げます。尚、相手方との間において、金銭の授受は一切ありませんし、それ以外の方々との間においても同様です(後略)」
このコメントでは不同意性交をしたかどうか、性交渉を持ったかどうかも触れられていません。不快な思いをした人は不同意性交を強いられたから不快な思いをしたのに、それに触れていない取り下げコメントは、卑怯と言えるでしょう。
また、被害者が証言台に立つとまで言っているのに、「いたとしたら」と、まるで証言者の存在を無視したような表現を使うのも、法律的用語として仕方がない面もあるとはいえ、被害者に失礼です。文春側は、被害者とも協議して取り下げに同意したと言っていますが、朝日新聞などによると、被害者は「これでは自分は存在しなかったことになる」と不満を述べているようです。
あくまで私の想像ですが、まず裁判所が想像以上に早い決着を望んだのではないかと思います。双方の証人、証拠がそろったところで、松本氏側に「絶対勝てませんよ、取り下げた方がいい」という引導が渡された。「このまま裁判を進めて証言者と対決したら、傷はさらに深まる」と厳しい見方を示した。そのため松本氏は、取り下げを決意せざるを得なくなったのではないでしょうか。