“学び”での、「自分を成長させたい」思いと、「学習者に寄り沿う」大切さ

神戸大学には、文部科学省の委託を受けた実践研究の場として、全国の大学機関では珍しい授業がある。2019年からスタートした「神戸大学・学ぶ楽しみ発見プログラム」(KUPI=Kobe University Program for Inclusion)だ。これは、大学教育を知的障がいのある人に開いていく試みで、今秋、「HRオンライン」は、その授業の様子を見てきた。そして、「学ぶこと」「教えること」の大切さを実感し、「KUPI」の統括責任者であり、授業を受け持つ津田英二教授(神戸大学大学院 人間発達環境学研究科)に話を聞いた。自分を成長させたい思いと、学習者に寄り沿うことの大切さとは?(ダイヤモンド社 人材開発編集部、撮影/菅沢健治)

文部科学省の政策からスタートした新たな取り組み

──現在、神戸大学で行われている、“学ぶ楽しみ発見プログラム「KUPI」”がどういうものなのかを教えてください。

「学ぶ楽しみ発見プログラム」は、2019年から開始した、知的障がいのある青年や成人に大学教育を提供する取り組みです。私たちは「クピ」と呼んでいます。Kobe University Program for Inclusionの頭文字をとって、「KUPI」です。

 2017年に、文部科学省が障がい者の生涯学習推進政策に着手し、「大学を活用できないか?」という考えから、文部科学省が神戸大学に委託するかたちで始まりました。

――「KUPI」の具体的なプログラムはどのようなものですか?

 大学の後期期間である、10月から1月の毎週3回、17時から20時に開講しています。週3回は、特徴がそれぞれ異なる授業になっていて、月曜日は各教員が自分の研究テーマを語るオムニバスの授業、火曜日は神戸大学生と共に学ぶ合同授業、木曜日は話し合いを中心とした授業です。定員は約10名。今年度は12名の知的障がい者が学んでいます。昼間は就労支援施設に通っている人が多いですが、一般就労で清掃作業などに従事している人もいます。とても熱心に楽しんで学ぶ人たちばかりで、何年も続けて通う人が多く、4年間で「卒業」としています。

 制度的には、学校教育法に基づく「特別の課程」としての実施で、入学選考と修了審査を行い、最後は学長名で履修証明書を発行します。KUPIを支える大学組織を背景に、大学教員とコーディネイター、それにサポーター役の学生(メンター学生)が協力し合って、学びの場を提供しているのです。

“学び”での、「自分を成長させたい」思いと、「学習者に寄り沿う」大切さ

津田英二 Eiji TSUDA

神戸大学大学院 人間発達環境学研究科教授

インクルーシヴな社会に向かう教育実践をテーマとして、研究活動・教育活動・社会的実践を行っている。専門は社会教育論、生涯学習論。単著に『知的障害のある成人の学習支援論』(学文社)、『物語としての発達/文化を介した教育』(生活書院)。地域社会で多様な背景を持つ人たちが相互に学び合う状況づくりを目指しつつ、最近は、学校卒業後に障がい者が学ぶ機会の拡充に関わる仕事が増えている。2023年に、書籍『生涯学習のインクルージョン 知的障害者がもたらす豊かな学び』を刊行した。25卒生向け「フレッシャーズ・コース2025」の「“キャリア”って何だろう?」コーナーを執筆。「HRオンライン」で「キャンパス・インクルージョン」を連載中。