ハートを持った手写真はイメージです Photo:PIXTA

木村石鹸では毎年4月を「親孝行強化月間」としている。これは社内の数ある取り組みの中でも、もっとも長く続いているものの1つだ。「親孝行」が「あたりまえのことに感謝できる心」を養い、結果、社員が幸せになれる──100年続く老舗・木村石鹸の四代目が、父親が設けた恒例行事の価値と重要性を語る。本稿は、木村祥一郎『くらし 気持ち ピカピカ ちいさな会社のおおらかな経営』(主婦の友社)の一部を抜粋・編集したものです。

木村石鹸の20年続く恒例行事
「親孝行強化月間」のねらい

 木村石鹸では、毎年4月に「親孝行強化月間」を設けています。20年以上続く、木村石鹸の恒例行事です。行事とはいっても「親孝行しましょう」と、社長が社員全員に1万円を支給するだけなのですが。

 何に使ったかの報告は必要なく、チェックもありません。たまには親孝行について考えてみてよ、と促すだけで、そのお金をどう使うかは、本人に任せています。

 僕はこの取り組みを親父(前社長)から引き継いだのですが、最初はあまりその意味も意義もわかっていませんでした。

 社員に親孝行を推奨するって何なのだろう。

 もちろん、何らかの理由で親孝行できない人もいます。「親孝行」というのはあくまでも象徴的なもので、簡単に言えば、自分がお世話になった人に感謝しようと促しているわけです。必ずしも「両親」と限定しているわけではありません。

 とりあえず、長く続いている取り組みなので、そのまま引き継ぎましたが、最初の数年は、続けるべきか悩みました。しかし、続ける中で、なんとなくこの取り組みの意味や意義みたいなものがぼんやりとわかってきたのです。

 親孝行強化月間は、年に1カ月でも、1日でもいいから、あたりまえのことがどれだけすごいことかを感じ、感謝する機会を提供する、つまり「感謝スキル」を磨く場なのではないか、と。

 この感謝スキルの向上は、人生の幸福と関係しているように思います。親父がこんな取り組みを続けていたのは、親孝行をさせたいというより、親孝行を通じて社員に感謝スキルを身につけさせたいということだったのではないか。

あたりまえの日常や生活に
感謝できる心を養う

 ある方からこんな話を聞きました。

 オランダは世界でも幸福度の高い国として有名です。

 ただ、その方がオランダ人に話を聞くと、幸福度が高いからといって「人生は最高にハッピー、幸せいっぱい!」みたいな感じではないということです。あたりまえですが、どちらかといえば、「まぁ、現状は悪くないし、不幸でもないので、とりあえずは十分かな」というような感覚だということを言っていたそうです。続けて、「それは日本でいうところの『足るを知る』というようなものでしょうか」と訊ねたら「まさにそんな感じだ」と。