与党内でも足並みが乱れている

 国会で弾劾案を通過させるには、国会議員300名のうち200名以上の弾劾案賛成票を獲得しなくてはならず、野党側の192名と合わせて与党「国民の力」側から弾劾案に賛成票を投じる議員が8名必要となる。このため、次回の弾劾案再提出までに与党側からの票の確保をめぐって与野党間の駆け引きが活発化するものと思われる。

 というのは、与党内でも尹氏に反感を持つ議員が多いからだ。特に「国民の力」党首で、もともとは尹氏の右腕と思われていた韓東勲(ハン・ドンフン)氏に至っては、今回の戒厳令による騒動で、尹氏との確執が想像以上に根深かったことが露呈している。政敵であるはずの李氏との密接なつながりから「もはや左側の人間」という認識が広がっているほどだ。韓氏は、一時は「次期大統領候補か」と期待視されていたが、今回の黒幕的な動きから、それはなくなったものと見なされている。

 また、尹氏に対しては、検察が韓国からの出国を禁止する措置を取ることを決定。さらに「内乱罪」を適用、立件される見込みも高まるなど、尹氏に対する非難の声は収まっておらず、立場が危ういことには変わりはない。

 ただ、当初は尹氏が自身の危機的な立場を死守するために、周囲の反対を押し切り暴走したかに見えた今回の戒厳令騒動だが、日がたつにつれ、「実は尹氏が4月の総選挙で左派が行った不正選挙を暴こうと賭けに出たのが今回の緊急戒厳令につながった」「尹氏の本来の目的は、自分を貶めようとした李氏と韓氏を逮捕することにあった」などさまざまな見方や推測、考察も出てきており興味深い。

 いずれにせよ、与野党の攻防は今後さらに激化し、混乱が続くことは必至だ。

デモ会場はまるでフェスのような盛り上がり

 前述の尹氏退陣を求めるデモは、韓国全土に拡大の様相を見せており、8年前、当時の大統領の朴槿恵(パク・クネ)氏が弾劾・罷免に追い込まれ失職した時に韓国内外で注目された「ロウソクデモ」を彷彿させるものがある。

 SNSに投稿された現地の写真や動画を見ると、デモが行われている会場には「応援棒」と呼ばれる色とりどりのペンライトが持ちこまれ、人気のK-POP曲が流れる中、参加者たちが大声を張り上げながら、歌ったり叫んだりしている。その雰囲気は政治デモというよりも、まるでフェスやコンサートのような盛り上がりだ。このデモの参加者たちが本当に全員左派なのかということに疑問も湧く。

 とはいえ、こうした光景を目の当たりにすると、左派系団体はとにかくデモを盛り立てる組織力や動員力に長けているという点は認めざるを得ないであろう。