たとえば、頭上にあるAIカメラは、意識しない限りなかなか確認することはないとしても、防犯などの目的から店内や来店者をカメラで捉えたり、店頭で主に販売促進のためのデジタルサイネージを活用したりするような事例は、かなり以前から実用化されています。そこに、AIなどの技術、データ分析、そして複数のデータを組み合わせることができるようになって、状況は大きく変わったというわけです。

 この点では、私たちLMIグループの「看板屋」たる現場対応力が力を発揮するのですが、今に至る流れは決して簡単な道筋ではありませんでした。もはや笑い話になっているようなエピソードや、リアル空間をリテールメディア化していく過程で起きたさまざまな事象についても、失敗談も含めてお伝えしていきましょう。

AIカメラvs.「長年の勘」

 たとえば、単にAIカメラを店頭に付けたとしましょう。現在では、それだけで来店者の把握や客数だけでなく、その方がどんな属性なのか、デモグラ情報が自動で取得できることになります。

 私たちLMIグループは、かつて実店舗をチェーン展開するリテールビジネスを自ら行っていたのですが、そこにAIカメラを導入することで、従業員による、いわゆる「長年の勘」が真実なのか否かが、明確にデータで検証できるようになりました。

 何時頃、何歳くらいと思われる人が何人訪れるかは、かつては正確に把握したければ出口調査をするしかありませんでした。

 当社では、こんな事例がありました。本部主導で店舗のデザインやディスプレイ、商品の置き方を全店で統一し、効率化を図ろうと提案したところ、一部のベテラン店長から反発を受けました。自分は長年この現場を見ていて知っている、自分の店舗では自分の判断で店舗価値が最大になるよう工夫していると主張して譲りません。

 そこで、AIカメラを取り付けて、両パターンを試し、実際に甲乙を判別してみたところ、本部主導、全店統一のほうが明らかに成果が大きいことが証明されました。

 よくある話ですが、「現場の神」のごときポジションを築き、頑固一徹、過去の経験だけで戦略戦術を主張する人がいます。実績があるからこそ、その地位を獲得しているのでしょうが、時には主観的、定性的な施策にこだわることもあり、周囲の人は当惑もするでしょう。かといって、定量的で目に見えるデータがなければ反論することも難しいわけです。

 もっとも、「長年の勘」がすべてデータで駆逐されるわけではありません。ある大手ファストフードでの事例では、ベテランの勘が、データによって見事に証明されたケースもあります。

 ただいずれにしても、客観的なデータで検証されることの重要性は高まっていると言えるでしょう。今の時代、店長の「長年の勘」をどうやって後進に継承していくのかは極めて難しい問題ですし、リテールの現場では人手不足もあって外国人の活躍も目立ち始めています。文化的な背景が違えば、「勘」で指導・監督し、「背中を見せて覚えさせる」ことはますます難しくなるでしょう。すべてを「当て勘」で片付けてはいけない時代になってきているのです。