コロナ禍が変えた抵抗感

 AIカメラは、少なくとも日本では2010年代前半頃から徐々に普及してきた機材です。私たちは、ごく初期から手がけています。

 大変便利で、リテールメディアの今後を考える際は欠かせないアイテムですが、「市民権」を得たのはごく最近になってからと言えます。

 大きな理由は、AIカメラを設置することに対するリテールの抵抗感が強かったからです。

 これもまた、当社グループ会社の実例なのですが、私がAIカメラの設置を進めたところ、従業員からは別の観点でのハレーションを訴える声が上がりました。

「お客さまから、『一体何を撮っているのか?』と聞かれて困惑した」
「私自身、お客さまの顔を勝手に撮影するなんて、どうかと思う」

 ……こうしたものです。

 この観点は、理解できるものです。たしかに、AIカメラで個人情報を入手することはできますが、当然許可が必要になります。あとで述べるようなデモグラに応用できるのはあくまで匿名、個人が特定されないレベルのデータです。

 それにもかかわらず抵抗があるのは、AIカメラがどういうものか理解されていない、あるいはそもそもAIカメラが何かを知らないからなのですが、かといって来店客にいちいち断りを入れるわけにもいきません。

 私たちが顧客にAIカメラの有用性を説明し、ひとまず試しに設置してみることをすすめても、社外のリテールで、AIカメラを導入させてくれる企業はほとんどありませんでした。

 そこで、まずは自社の現場で試行したわけです。

 しかし、現在ではこうした話はほとんど聞かなくなりました。その理由は、AIが発達したからでも、カメラが小型化したからでも、AIカメラに対する知識が増え理解が進んだからでもありませんでした。

 実は今まで述べたエピソードは、コロナ禍よりも前のことだったのです。

 新型コロナウイルスの影響で、人流は一時期急速に萎縮し、その後少しずつもとに戻る過程をたどりました。この間、世界中でさまざまな対応が行われ、また新しい技術や機器が注目されて投資が行われたわけですが、特に大手リテールの店頭には、ほぼすべてと言っていいレベルで、体温を測定するカメラが設置されたのです。

 なかには消毒液のディスペンサーと一体になっているものもあり、手を消毒している間にカメラをのぞき込むと体温が表示され、来店客がそれを自ら確認するような流れが一般化しました。

 実はこの一連の手続きが、AIカメラ設置、そして来店客がカメラに撮られることの抵抗感、拒否感を大いに減少させた……というのが、私の仮説です。

 もっとも、統計的なデータはありませんが、少なくとも私たちのビジネスにおいて、AIカメラで来店者を撮影することへの抵抗を感じなくなったことははっきりしています。そして、社外の顧客にもAIカメラの設置をおすすめしやすくなったのです。

 さらに、設置数が増えることで教師データ(AIの機械学習において、例題と正解がペアとなっているデータ)も急増し、並行してAI自体の精度も高まったことで、AIカメラの実用性は一段と高まっていたわけです。

リテールの現場で結果を出すのは「AI」?「長年の勘」?客観的なデータだけが正解を知っている〈PR〉
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