このバイブスに感応してしびれるのはホワイトカラーの30代から40代男性にとどまらず、デリバリーをするギグワーカーたちすらも彼ら3人の方向を向いただけで「ビビビッ」と魔法にかかってしまう。私はそのワクワク感を「強者憑依」と呼んでいます。
3人の超人から受け取った言葉を身にまとい、その口ぶりを真似てみる。すると自分が1歩、アリババのジャック・マー(馬雲)に近づいたような気がしてくるのでしょう。強者のポジションに成り上がった時を、今からシミュレーションするのが日課になっていく。自分が「SHEIN」や「Temu」を創業したらどうなるだろうか、「いや、イーロン・マスクや柳井正、孫正義のようにでっかい山を当てたなら」と推しているヒーローに近づくためには動画を観て、サブスクライブして、課金してセミナーにも入門。1歩、また1歩とジャック・マーが自分に近づいてくる。特別会員になったらヒーローたちと直接話せるかもしれないという期待がより信仰心を昂ぶらせていきます。
そして、一定の期間が過ぎたある日、かなりのサブスク会員に「その時」が訪れます。「事業は起こせましたか?」「成功を収めましたか?」「今いる会社で昇進、昇給しましたか?」「まだ準備中ですか?」「(堀江さん、成田さん、ひろゆきさんは)あなたが愛するのと同じぐらいにあなたを愛し返してくれましたか?」という悲しい現実が。
魔法が消えたあとで
転げ落ちる信者たち
信じていたはずの魔法が薄らいだ時に人はどうなるでしょうか?
ある人は幻滅してサブスクや彼らのコンテンツから離脱するでしょう。あるいは次の自分がなりたい、目指すべきヒーローを見つけて引っ越す人もいるでしょう。逆に、ギャンブル依存症のように前よりもさらに強く3人に帰依する人もいるはずです。
客観的に見れば、それはただ、本人が気づかないうちに日常から転げ落ちているようにも感じられます。実際に転げ落ちる人ほど、まだ大丈夫だと思い込む傾向があり、落ちる速度が加速していることに気づかないまま落下していくのです。