もう秋だからとランプをつけたムーミンママの行動に対してムーミンパパは不満を抱き、「うちによっては、ランプをつける時期を決めるのは、その家の父親なんだが――」とぼやきます。こんな感じで、頑固親父タイプのニューロマイノリティの内面ではいろんなことがその人の自己完結的に進行していきます。そんなムーミンパパが岩壁の裂け目で灯台の鍵を発見するときの描写は、象徴的です。

 ムーミンパパの頭の中で、なにかがカチッとはまるような音がしました。これでなにもかもすっきり、はっきりとしました。ここは灯台守が、ほんとうにひとりになりたいときにやってきて、考えごとをする場所だったのです。こここそ、灯台守がかぎを置いていって、ムーミンパパに見つけさせ、灯台を引きわたそうとした場所だったのです。おごそかな儀式と魔法の力を通して、ムーミンパパははじめて灯台の持ちぬしとなり、灯台守にえらばれたのでした。(『海へいく』p.71)

 誰かが天啓を受ける場面というのは、一般に極度の自己完結性を示していますが、それゆえに自閉的な人々は、強い閃きに襲われ、人生を動かされることが多いように見受けます。

ムーミンパパの自閉性が
ムーミンママにも伝染?

 じぶんの意志とは無関係にとつぜん環境が変転することになったムーミンママは心に変調を来たします。おそらくトーベは、ファッファン亡きあと、残されたハム(編集部注/原作者トーベの母親、シグネ・ハンマシュティエン=ヤンソンの呼び名)とのあいだに、それまで以上の母と娘としての密着度の高まりを感じていたのかもしれません。ムーミンママはじぶんで壁に描いた絵のなかに入っていき、絵に描かれた庭のなかで安らぎ、さらに彼女も「みんな水の中」を体験します。ふだんはとても家族思いのムーミンママですが、この過程でムーミンママは自閉していきます。

 ママは、りんごの木の後ろに立って、みんながお茶の用意をするのを見ていました。みんなに少し霧がかかったみたいに、ぼやけて見えました――まるで水の中を動き回っているみたいでもありました。(『海へいく』p.225)

「ほんとに自己中心的だわ」

 と、ちびのミイはいいました。

「ここにいるのはママばっかり。あたいたちも描くことはできないわけ?」(『海へいく』p.247)

 ムーミンパパの自閉性が、ムーミンママにも伝染したのでしょうか。

 主人公のムーミントロールも自閉性の海へと身を沈めていきます。『ムーミンパパ海へいく』はトーベによる「みんな水の中」モティーフの総決算となっています。空き地を見つけたときには、ムーミントロールはこんな感じの態度です。