決済機能で伸びたICカード
次に注目すべき「認証機能」
国内トップの鉄道会社であるJR東日本が発行するSuicaは、その規模において、他の交通系ICカードとは一線を画している。ただし、決済利用上限額が2万円といった制約がネックになっている。それが、日常生活の決済において、QRコートやクレジットカードに押されている要因の一つだ。
「決済機能だけではSuicaの将来性に限界があるが、むしろ認証機能に注目すべきだ」と至道氏は言う。
例えば、2024年1月の能登半島地震に際し、政府は被災地にSuicaを配布し、それを通じて本人確認や支援物資の管理を行うなど社会的な活用の場が広がった。マイナンバーカードの機能が追いついていない現状では、Suicaに認証機能の役割を託すことが現実的だというデジタル庁の判断があったからだ。
現在も、Suicaを利用してホテルの部屋の鍵を開けたり、レンタサイクルを利用したりなど、決済機能だけではなく、認証機能としての可能性が広がっている。将来的には、クラウド型Suicaの普及が進み、データ処理の迅速化やチャージの上限額の引き上げが可能になる。
こうした動きは、顧客データの瞬時取得や、駅設備に依存しないシステム構築などのメリットがある。そういう意味で、Suicaに代表される交通系ICカードが持つデジタル分野での可能性は大きい。
将来性や安定性か
はたまた挑戦する機会か
鉄道業界内における人材の流動性や採用について、特徴を整理しておこう。
新卒採用に関しては、鉄道会社への人気は依然として一定の水準を保っているが、将来的な人気低下も懸念されている。例えばJR東日本なら、不動産部門の社員が東急不動産など他の不動産会社へ転職する例もあり、不動産専門の視点から見ると、鉄道会社では意思決定スピードという点において物足りなさを感じる場合があるようだ。
鉄道会社の新卒採用において学生が重視しているのは、将来性や安定性だ。特に高卒採用においては、夜勤や残業があっても働いた分だけ確実に収入が増える安定した職場として、鉄道業界は今でも高い人気がある。
しかし、大卒者の場合、駅勤務や運転士としての業務に終始するキャリアパスに疑問を抱く学生も少なくない。そのため、JR東日本のように総合職や現場職(エリア職)を明確に分けて採用するも挑戦の機会を増やし、キャリアの幅を広げる取り組みが注目されている。
現場職(エリア職)の採用者にも私鉄の総合職に匹敵するような業務を任せることがあり、実務の幅広さが評価されている。
ただし、JR東日本の現場職採用者には、海外勤務や取締役への昇進といったキャリアパスは用意されていない場合が多い。それでも、多くの大卒生が「安定性」や「広範な業務経験」を求めてJR東日本への就職を希望している。
このように鉄道業界では、安定性を求める層と、挑戦や成長を求める層で人気の傾向が分かれており、採用や人材育成においても柔軟な対応が求められている。