鉄道事業で大事なのは
マニアックな知識ではない
鉄道事業は国内市場だけでは頭打ちのため、海外にも販路を広げようとしている。日本が世界に提供できる価値は、車両技術そのものよりもオペレーションや保守管理、人材育成といった分野だ。特に鉄道運行において、安全性や時間厳守といった日本の価値観を海外の人々に浸透させ、そのノウハウを提供することが重要となる。このようなノウハウは、日本の鉄道技術の強みとして大きな価値を持つ。
一方で、国内の鉄道業界では、人材面での課題が顕著だ。その背景には、業界全体の人気低下や人材育成の環境への不安がある。たとえば、研修施設が充実している一方で、駅員や運転士などの業務に固定され、他の業務に挑戦する機会が少ないといった、社員が挑戦できる環境が十分に整っていないという問題がある。
そんな中、JR東日本では、社員が自ら手を挙げて希望する部署に異動する制度などが整備されている。「社員が挑戦しやすい体制を作り、意欲的な人材にとって魅力的」(至道氏)に映るだろう。こうした柔軟性が、他業界からの転職希望者を惹きつける要因となる。
旧態依然とした企業文化から脱却しようとする鉄道会社も増えてきた。その中で求められる人材像は、鉄道業界に対する固定概念を打ち破り、新しい価値を創造できる人物だ。古き良き鉄道に思いを馳せるノスタルジーや、マニアックな知識を求める「鉄道オタク」的な視点ではなく、鉄道というリアルな信頼を背景に、地域活性化や社会課題の解決のための手段として捉える視野が重視されている。
鉄道業界は定期収入が全体の5~6割を占めるため、利益を生み出す実感が得られにくいという課題がある。また、過去の歴史から業界全体が内向き志向に陥りやすい。このような体質を変えるため、「駅を防災拠点にする」「無人駅を医療や防災の中心地にする」といった新しいアイデアを出せる人材を積極的に採用している。
従来の鉄道会社の枠を超え、地域や社会全体に価値を提供する組織への変革を目指す中、学生や若手社員にとっては、その取り組みがキャリア形成の重要な要素となるであろう。