本来なら司直が動くべき事案ですが、逆に国有地取引をめぐる決済文書の改竄が行われました。国の土地なので財務省の責任で売却しますが、この問題に関して何度も会議が持たれ、どんな発言があったかがわかる資料が存在したのに、昭恵夫人の関与に関する文書は改竄されて、発言はないことになってしまいました。
読者諸氏もご存じのように、最終的には文書製作担当だった財務省近畿財務局職員の赤木俊夫氏が、自分に責任が嫁されるとわかったためか自殺の道を選び、この経緯について責任を持つ財務省理財局長の佐川宣寿氏は、首相夫妻への「忖度」とも思える国会答弁を繰り返し、逆に国税庁長官へと出世をしました(文書改ざん問題が報道された直後に財務省を退官)。この間、昭恵さんがきちんとした説明をしたことはありません。
この事件をきっかけに、安倍長期政権では官僚の忖度とゴマスリが横行します。加計問題、桜を見る会問題と次々に疑惑が浮上しますが、これらに対する追及は官邸と官僚の壁に阻まれ続けました。安倍政権と距離が近く、事件に手を付けさせなかった東京高検検事長の黒川弘務氏の定年を延長し、検事総長に登用しようとするような動きさえ起こりました。
古代中国に見る「傾国の美女」
そして、誰もいなくなる
私は、古代中国における西周の幽王(ゆうおう)の故事を思い出しました。王は棄児の褒姒(ほうじ)という女性を助け、美女に育ったので、後宮に入れました。この褒姒という女性、笑ったことがありません。幽王はなんとか彼女を笑わせようとしましたが、絶対に笑いません。
ある日、幽王が緊急事態を知らせる烽火を上げさせ、太鼓を打ち鳴らしたところ、諸将が慌てて駆けつけた様子を見て、褒姒は初めて晴れやかに笑いました。喜んだ幽王は、その後、たびたび無意味に烽火を上げさせたので、次第に諸将は烽火の合図を信用しなくなりました。
王は正式な妻を離縁して褒姒を正妻に迎えたため、怒った前妻の父が反乱を起こしました。が、王が烽火を上げても、誰も応じません。反乱軍は幽王を殺し、褒姒を捕え、この乱で西周は滅びました。
中国の歴史には、褒姒のような怪しい美女が出現し、王が失政を冒し亡びるということが多々あります。そして中国では、このような女性を「傾国の美女」と呼びます。安倍昭恵さんの行動は、私にこの「傾国の美女」という言葉を想起させました。