森友・加計問題は、日本政府の中枢の責任感を崩壊させ、国民の政治への信頼感を喪失させました。公文書に正確な記録を残すこと、そしてその文書に改竄を加えないことは、民主主義国家の絶対的な前提のひとつです。それを妻一人を守るために破った首相と国家、それを守った自民党を、まともな官僚や政治家は誰も支えようとしなくなりました。
それは本当の危機に、首相に直言する人物がいなくなることを意味します。コロナ危機が起こった当時のあの後手後手な危機管理は、官僚の消極的抵抗にほかなりません。それによって何万人もの生命が危機に陥っても、首相はアベノマスクを用意することしかできませんでした。しかも、不要不急の外出禁止令を夫が出している当時、妻は50人もの人を招いた宴会を開いたと報道されています。
こうした一連の動きを見ながらも、昭恵さんは夫の行動が人々を裏切り、苦しめているということに気づかなかったのでしょうか。その後、安倍首相は統一協会信者の家族から命を狙われ、凶弾に倒れました。そのことは昭恵さんにとっても、日本の民主主義にとっても、大きな問題を残しました。
しかし、安倍氏が亡くなったあと、昭恵さんはまた大きな疑問を残す行動をとりました。安倍氏が持っていた政治資金2億1000万円が、今後政治家になる予定のない昭恵さんの手に入ることになったのです。安倍氏が亡くなった22年7月、昭恵さんはいずれも安倍氏が代表者だった資金管理団体「晋和会」と「自民党山口県第4選挙区支部」の代表に就任。結局、これらの団体を含む安倍氏の5政治団体から、政党交付金の国庫返納も相続税の納付もなくして、政治資金をまるまる相続した格好となりました。
危険な「外交ごっこ」よりも
今真にやるべきこと
さて「傾国の美女」には、先ほど挙げた褒姒よりもっと有名な人物がいます。唐の玄宗皇帝の皇妃だった楊貴妃は、単に美貌で国王を腑抜けにするだけでなく、愛人関係にあった異民族の軍人、安禄山を帝国の内側に入れ、その反乱によって唐の国は滅ぼされる直前にまで至ります。
今、安倍昭恵さんがやっている「外交ごっこ」に、その危険性はないでしょうか。冒頭で述べたように、昭恵さんはトランプ大統領に日本の首相より早く招待されて渡米し、民間人として大統領の就任式にまで参加して、あたかも米国と日本の架け橋であるかのように振る舞っています。
しかし、彼女に外交がわかるとは思えません。現在の石破政権と明らかに主張が違う元首相の夫人が他国の新大統領に歓待され、内政では荻生田光一氏といった、安倍派の裏金議員の選挙応援をすることが、果たして国益にかなうことなのでしょうか。
安倍昭恵さん、あなたが今やるべきことは、非業の死を遂げた赤木氏や、その他安倍政権の踏み台にされた人たちを弔うこと、そして相続税なしで得た大金を貧しい人々への寄付に使うことではないかと、私は考えます。
(元週刊文春・月刊文藝春秋編集長 木俣正剛)