実は、似たような話が、『ギリシャ神話』にもあるのです(編集部注:ペルセポネの冥界下り)

『ギリシャ・ローマ神話』は特に面白く、現代にも通じる比喩の宝庫といえます。1つの例を挙げましょう。

 美少年のナルキッソスは、池の水に映る美しい少年を見て恋に落ちた。それはナルキッソス本人だった。ナルキッソスは水に映る少年に抱きつこうとして池に落ちて亡くなった。ナルキッソスが亡くなった場所には水仙の花が咲いていた。ナルキッソスの化身とされ、水仙のことをナルシスという。

古典に描かれる
人間の思考の原型

 ナルシシズム(自己愛)に溺れて自滅するというのは、現代的な話でもあります。ほかには『オイディプス王』などもぜひ読んでおきたい物語です。以下に、簡単なあらすじをご紹介します。

 テーバイ王ライオスは「自分の息子に殺される」という恐ろしい予言を受けた。王妃イオカステが男児を出産したので、ライオスは赤子を遺棄させた。ところが赤子のオイディプスはコリントス王夫妻に拾われ、育てられることに。

 成長したオイディプスはコリントスから旅に出て、その途中で偶然出会ったライオスを、父と知らずに、殺してしまう。

 その後、オイディプスはテーバイ王となり、イオカステを妻に迎える。

 しかし、彼には悲劇が待っていた。自分自身が父親を殺し、母親と結ばれていたことを知ってしまったのだ。

 結末は、ぜひ実際に読んで確認してください。

『オイディプス王』は人間のタブーである父殺しと母との姦淫という2つの悲劇をテーマにした大傑作であり、もはや乗り越えが不可能な物語です。カフェで1時間もあれば簡単に読めますから、コスパやタイパを求めたいなら読まない手はありません。

 古典を読むと、それが人間の思考の原型となっていることがわかります。例えば『オイディプス王』を読むだけで、フロイトの「エディプスコンプレックス」という概念が理解しやすくなります。